2000年頃に端を発する改良メダカのブームは2021年現在も続いており、日々新しい品種が作出されています。近年は、一匹のメダカに何色もの色が現れる、まるで錦鯉のような鮮やかな見た目をした「多色系」の品種も登場しており、いまだブームはとどまるところを知らない様相です。
今回紹介するのは、そんな比較的新しい多色系品種の一角である「夜桜メダカ」です。改良メダカのことを知らない人が見たら、これがメダカだとはまず思わないであろう非常に鮮やかな体色と多数のラメが美しい、まさに「豪華絢爛」という雰囲気の品種です。
夜桜メダカとは
品種名 | 夜桜メダカ |
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種名 | キタノメダカ ミナミメダカ ニホンメダカ |
分類 | ダツ目メダカ科メダカ属 |
原産地 | 日本 |
飼い易さ | |
値段(1匹) | 1000円程度~ |
最大体長 | 3cm程度 |
寿命 | 3年程度 |
遊泳層 | 中~上層 |
適合する水質 | 水温:16~30℃ pH:6.5~8.5 |
特徴 | 半透明鱗、ブラックリム、ラメ等の複数の形質を併せ持つメダカの改良品種。青黒い体色に黄色やピンクがのり、ラメも散らばる鮮やかさで人気が高い。 |
夜桜メダカは、メダカ交流会in愛媛の会長を務める垂水政治氏によって作出されたメダカの改良品種です。「オーロラ幹之メダカ」と「黄幹之メダカ」の交配から誕生した品種で、体色は青黒い色合いに黄色やピンクがのり、加えて背中を中心にラメが散らばる鮮やかなメダカです。作出当初のから改良が進み、現在は様々な色合いのバリエーションが拡がってます。
夜桜メダカの体色・形質の原理
夜桜メダカは、青黒い体色に黄色、柿色やピンクが入り、さらにラメがのっているのが特徴です。これは様々な形質が複合して現れている非常に複雑な表現型ですが、このような表現になる原理を、個々の形質に分解して解説していきます。まずは「オーロラ」という形質が発現する原理から説明していきます。
オーロラ(半透明鱗)
「オーロラ」という形質は別名で「半透明鱗」とも呼ばれ、メダカの持つ色素胞のうち虹色素胞が欠如することによって発現し、体が透けて見えるのが特徴です。
色素胞とは
魚類、両生類や爬虫類などが持つ色素細胞で、「黒色素胞」「赤色素胞」「黄色素胞」「青色素胞」「白色素胞」「虹色素胞」の6種が存在します。原種メダカはこのうち「黒色素胞」「黄色素胞」「白色素胞」「虹色素胞」の4種類を持ちます。
虹色素胞の欠如によって発現する形質は、その程度によって以下の3種類に分けられます。
- 透明鱗…頬(エラ)部分の虹色素胞が欠損しているもの。
- 半透明鱗…頬(エラ)部分又は全身の虹色素胞がうっすら欠損しているもの。
- 強透明鱗…全身(虹彩、エラ、腹膜等)の虹色素胞のが欠損しているもの。
強透明鱗の場合、透明の傾向が強く内臓が透けて見え、特にエラ部分では血液の赤色が目立ちます(このような形質を持つ品種としてパンダメダカが存在します。)。
一方でオーロラ(半透明鱗)の場合は、そこまで透明度が高くないため、エラの近辺がピンク~薄紫色に見えます。これが夜桜メダカに差し色のように入ってくるピンク色の発現原理です。
ブラックリム
半透明鱗の形質を持つメダカは、「ブラックリム」と呼ばれる、鱗を強調するように黒い柄が発現する形質を併せ持つことがよくあります。ブラックリムによる黒色は、頭部では鱗の縁に、尾ビレに近づくにつれて鱗の中心部分に現れる傾向があります。このブラックリムが、夜桜メダカが青黒い色合いを持つ理由となっています。
ラメ
夜桜メダカは、前述のとおりオーロラの形質を持つ「オーロラ幹之メダカ」と、「黄幹之メダカ」の交配によって誕生しました。これら2つの品種のベースになっているのが「幹之メダカ」で、虹色素胞が背中に発現することで光を反射する「体外光」という特徴的な形質を持つことで知られています。
幹之メダカは、他にも鱗の1枚1枚に光が発現する「ラメ」という形質も持っています。ラメの原理は体外光と同様で、光を反射する虹色素胞が鱗に集まることで、キラキラとした光が現れます。夜桜メダカにも、幹之メダカからこのラメの形質が受け継がれています。
部分的な黄色素胞の発現
黄幹之メダカは、幹之メダカの中でも「白幹之メダカ」をベースに作出された品種です。黄幹之メダカの特徴はその名のとおり、黄色素胞が部分的に発現することです。体全体が黄色になるわけではなく、部分的に黄色が乗ってくるというのが大きな特徴です。この形質を受け継いだ夜桜メダカも、体の一部に黄色が現れます。
ちなみに、実は黄幹之も半透明鱗の流れをくんでおり、黄色素胞が部分的に発現するのも半透明鱗由来の形質だと言われています。
夜桜メダカの形質まとめ
ここまでの説明でわかるように、夜桜メダカは多数の形質が複合して現れた非常に複雑な表現型を持つ品種です。その上、夜桜メダカはバリエーションが豊富なことでも知られており、その表現は非常に幅広いです。
夜桜のリリース当初は、夜空に桜の花が散らばる様なまさに品種名の夜桜をイメージしたような青黒い下地にオーロラ形質の頬の辺りがほんのりピンクに見え背中のラメが煌びやかに光るような個体がメインでしたが、その後黄色がかかるような個体が増えていき、今は下地の青黒い個体より黄から柿色が強い個体も多く流通しています。
夜桜メダカの作り方(作出方法)
すでに説明したとおり、夜桜メダカは、オーロラメダカ(厳密にはオーロラ幹之メダカ)と黄幹之メダカ(黄桜)の交配から生まれた品種です。従って、これら2つの品種を掛け合わせて累代繁殖させれば、夜桜メダカと同じような表現のメダカが生まれる可能性はあります。
もう少し言うならば、夜桜メダカの作出過程ではラメと光沢を持つ個体を選抜して掛け合わせていったそうなので、この点も参考にすると再現性が高くなる可能性があります。
夜桜メダカと関連の深い品種
ここまでで、夜桜メダカの作出経緯や表現型が現れる原理を解説してきました。すでに述べたとおり夜桜メダカは複数の形質を併せ持つ品種なので、様々な品種と密接な関係を持っています。ここでは、夜桜メダカと特に関係が深い改良メダカの品種をいくつか紹介しておきます。
オーロラメダカ
オーロラメダカは前述のとおり、夜桜を作出する元になった品種です。特徴はすでに記載しましたが、半透明鱗の形質を持つためエラの周辺が薄紫~ピンク色で、ブラックリムと呼ばれる鱗に特徴的な黒い柄が入るメダカです。
しかし、これらの特徴が無くともオーロラの血筋を引いているメダカも存在しており、オーロラメダカかどうかはパッと見ではわかりにくい場合もあります。
黄幹之メダカ(黄桜・灯)
黄幹之メダカは幹之メダカに部分的に黄色が入るメダカです。この黄幹之が登場するまで、幹之メダカには青幹之と白幹之の2通りの体色しか無かったため、2014年に発表されたときは衝撃的な出来事だったようです。ただし、黄幹之メダカは固定率が低いため、黄幹之メダカの子どもには黒、白、灰色、3色、体外光無しなど様々な特徴を持つ個体が現れます。
女雛メダカ
女雛メダカは夜桜メダカと同じく、オーロラメダカと黄幹之メダカを掛け合わせて作出された品種です。作出過程でラメを入れる方向で改良が進んだのが夜桜メダカ、体に現れる朱赤色より濃くして「柿色」のような色合いになるよう改良がすすめられたのが女雛メダカです。
オーロラメダカの特徴であるブラックリムの形質を受け継ぎ、鮮やかな柿色とブラックリムの黒さを併せ持つ、美しさの中に力強さを持ち合わせた体色です。柿色の出現場所は様々で、頭部付近に出る場合や尾ビレ付近に出現する場合など多岐にわたります。
煌メダカ
煌メダカは、夜桜と女雛を4~5世代程度累代交配して作出・固定された品種です。黒い体色と黄色~柿色の表現を併せ持ち、そこに体外光までのせた「贅沢」とも言えるほど様々な形質を併せ持つ品種です。
なお、女雛メダカ及び煌メダカは、夜桜メダカの作出者である垂水氏が作出された品種です。
夜桜メダカの飼育方法
夜桜メダカは非常にきらびやかな見た目をしたメダカではありますが、他の多くの改良メダカと同様に、原種メダカの頑強さを受け継ぎ飼育は簡単と言える魚です。具体的には、以下のポイントを抑えて飼育に望めばそうそう問題は起きないでしょう。
基本的な飼育方法
- 一般的なアクアリウムでの小型魚飼育では水量は体長1cmにつき1リットルが目安
- メダカ愛好家は1匹1リットルを目安とする人が多いがアクアリウム的な飼育方法よりも換水頻度は高い
- 飼育場所や品種によって適する飼育容器が異なるため「飼育容器選びのポイント」のページ参考に
- 幅広い水質に適応できるが急激な水質変化はダメージが大きいため水合わせは丁寧に
- 使用期限を過ぎたエサは与えない
屋外飼育のポイント
- 水質の維持にはホテイアオイ等の浮草系水草の利用が有効
- すだれを使って夏場の高水温を対策
屋内飼育のポイント
- ろ過フィルターを使用して水質を維持
- 概日リズム調節のためライトも必要
- 水槽は60cm規格サイズか30cmキューブサイズがおすすめ
もう少し詳しく知りたい場合は、ヒメダカや黒メダカのページで詳細に説明しているので、そちらも参考にしてください。
強いて夜桜メダカに特有のポイントを挙げるとすれば、(多くの品種で言われることではあるものの)飼育容器はやはり黒色の容器が良いと思われます。白容器で飼育すると、オーロラの血筋を引いているとわかるピンクの下地の体色が見えたりもしますが、やはり背地反応によって色抜けが発生してしまうので、黒容器で夜桜メダカの鮮やかな色合いを楽しむほうがおすすめです。
背地反応とは
周囲の色によってメダカが体色を変化させる保護色機能のことを「背地反応」と呼びます。
夜桜メダカの繁殖方法
夜桜メダカは飼育方法と同様に、繁殖方法についても特別な配慮は必要ありません。これについても詳細はヒメダカ等のページを参考にしてもらうこととして、ここでは概要のだけを紹介しておきます。
メダカの繁殖方法
- 日照時間が12時間以上、水温18℃以上をキープ
- 食卵を避けるため卵はすぐ親メダカから隔離
- 産卵床を使用すれば卵の隔離が容易
- 孵化までの積算温度は250程度
- 稚魚(針子)はエサ切れに弱く餓死しやすいので1日に2~5回の高頻度で給餌
- 稚魚も親に食べられないサイズまでは隔離飼育
日照時間と水温の条件さえ整えておけば、産卵まではさほど苦労せずたどり着けるはずです。あとは親魚に卵や稚魚を食べられてしまわないよう、隔離飼育を徹底することが重要です。
ただし、黄幹之メダカの血統の影響か、夜桜メダカは固定率がやや低く、親と子の表現(体色や柄の入り方等)が似ていないことも多いです。そうは言っても、体色やラメがしっかりとした親の方が子孫にもその形質は受け継がれやすいため、より良い表現を追求するためには選別は必要です。
夜桜メダカの魅力・おすすめポイント
夜桜メダカは品種として発表された当初から人気が高く、全国の愛好家に一気に広まりそこでさらに改良がされて、発表当初の色合いから少しづつ変化してきています。オリジナルは青白い体色に薄いピンクの頭部、そしてラメが入るという感じでしたが、最近は色合いのバリエーションがどんどん広がって鮮やかな体色の個体が増えています。
実際に夜桜メダカを繁殖させている人の話を聞く限りでは、黄幹之メダカの血が入っているせいか、親と同じような表現が出るというよりも、様々な体色の表現が出るという傾向がある、という感じらしいです。固定率が低いというのは難点でもありますが、繁殖させて自分好みの表現の夜桜メダカを狙うという楽しみ方がしやすいという側面もあります。興味を持った方は、一度夜桜メダカを飼ってみるのも良いですね。