ニホンイシガメはペットとしても人気があり、ミドリガメ(アカミミガメ)やクサガメに次いで良く飼育されている亀ですが、実は希少な亀でもあります。環境省レッドリストの準絶滅危惧種にも指定されており、将来的には絶滅する危険性すらもあると考えられています。
このような状況に陥ってしまったのには、生息環境の破壊や外来種との間の生存競争・交雑問題、そして乱獲などの複数の原因があります。しかしいずれにしろ、人間の行動が深く関わっているのは明らかです。
ニホンイシガメの置かれているこのような状況を打破するため、近年では保護活動も積極的に行われています。しかしその反面、外来種を飼育放棄して捨てたり、悪質な業者による乱獲のような最低な行為もいまだに多く見受けられます。
そしてつい先日、このブログにも時々コメントを残してくださっているイシガメ飼育者さんが管理されているコロニーで大規模な乱獲がありました。このような行為が行われているという事実を広く知ってもらい、少しでもこういった行為の抑止につなげたいと思って今回の記事を書くことにしました。
イシガメが減少している理由
本題に入る前にちょっとした背景知識として、イシガメが減少するようになってしまった原因を紹介していきます。これらの原因はイシガメだけでなく、その他の多くの生息数を減らしている亀や生き物にも共通する部分があります。
生息環境の破壊
まず最初に挙げる原因は、生息環境の破壊です。イシガメは水の綺麗な河川や池沼などに生息していますが、そのような環境は近年の開発によってかなり破壊されてしまいました。このような生息環境の破壊が、ニホンイシガメが減少している一番大きな理由だとされています。
外来種との生存競争
日本で一番身近な亀といえば、多くの人はミドリガメを挙げるでしょう。この亀はペットブームとともに日本で普及した亀で、正確には「ミシシッピアカミミガメ」というアメリカ原産の亀です。
ミドリガメはペットとして日本以外にも世界各地で販売されていますが、その強靭さから野生化した個体が在来種を駆逐するなど、生態系へ影響を及ぼすことが多いです。それゆえに「世界の侵略的外来種ワースト100」などにも指定されており、非常に問題視されています。
日本でも昔はイシガメが住んでいたような場所に、今ではアカミミガメしかいないというようなことが多々発生しています。このような現状を受け、環境省はミドリガメを特定外来生物に指定することを検討しています。
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どうなる日本の亀事情?ミドリガメが特定外来生物の候補に!
ペット亀として馴染みの深いミドリガメことミシシッピアカミミガメがモラルのない飼育者の遺棄等により野生化、生態系を破壊していることが問題となっています。これを受け環境省がミドリガメの特定外来生物への指定を検討し始めました。
特定外来生物に指定されると飼育が原則として禁止になり、環境省による駆除の対象にもなりえます。現状を考えるとこの対応はあまりにも遅すぎると言えますが、それでも問題であることを明らかにしていると言う点では前進ともいえます。
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ミドリガメ駆除方法に新案!亀肉カレーが意外においしい!?
日本の侵略的外来種ワースト100にも選定されているミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)の駆除方法として、カメ肉カレーにする方法が考案されました。試食会では意外にも好評だったとのこと。亀の駆除や活動の経緯について紹介します。
外来種という問題点に関しては、省庁に頼らないNPO法人などによる活動も行われています。このような活動が今後も継続的に、規模を大きくしながら行われていくことが重要です。
2015/11/03 追記
ミドリガメに関しては、2020年に特定外来生物に指定され輸入・販売・飼育が禁止されることが決定しました。
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(撤回)ミドリガメ輸入・販売・飼育禁止?-飼い主はどうすれば良い?
日本で最も人気のペット亀・ミドリガメ(アカミミガメ)が、生態系保護等の理由で2020年を目処に輸入・販売・飼育禁止となることが決定しました。規制の背景・内容・今後の展開と現在飼育している飼い主が取るべき行動をまとめます。
問題解決へ向けて一歩前進ですが、まだまだ周知が十分ではないので、2020年に向けてこの決定を多くの人に知らせていく必要があります。特に現在ミドリガメを飼育している人が適切な手続きを行うように促し、特定外来生物への指定をきっかけに、遺棄されるミドリガメが増えるなどという事態をどうあっても防がねばなりません。
2020/05/07 追記
環境省に問い合わせたところ、「アカミミガメを特定外来生物に指定するという検討は行われたが、2017年現在ではアカミミガメを特定外来生物に指定する具体的な時期の指定はしておらず、今後も具体的な時期の予定はない。」とのことでした。影響が大きすぎるため、特定外来生物への指定が見送られたものと思われます。
交雑
ニホンイシガメはクサガメと交雑することが知られています。交雑して生まれた雑種亀は「ウンキュウ」と呼ばれるのですが、このウンキュウにも生殖能力が備わっているので、ウンキュウ同士またはウンキュウとイシガメやクサガメが交雑して、さらに雑種の子亀を産みます。
つまり、一度でもクサガメと交雑してウンキュウとなってしまうと、その子孫は二度と純粋なニホンイシガメにはならないので、ある程度限られた範囲でイシガメとクサガメが一緒に暮らしていると雑種ばかりになってしまうのです。これではニホンイシガメという種類の亀は減ってしまうことになります。
ここで問題になっているクサガメは、実は江戸時代頃に中国から日本に持ち込まれた外来種である可能性がかなり高いと言われています。この問題もまた、人間の考えなしの行動が招いた結果なんですね…(江戸時代に種の保存とかいう概念はなかったでしょうから仕方ないのですが)。
乱獲
そして私が個人的に最低だと思っているのが乱獲です。ニホンイシガメが生息数を減らし希少となってきたのに反比例して、レアリティを重要視する一部のマニアの興味を引くようになり、イシガメが高値で取引されるようになって来ました。これに目をつけた程度の低い人間がイシガメを乱獲して売りさばいているのです。
売りさばく人間はイシガメのことなんて何も考えていません。知識が無い場合もあれば、自分のやっていることがどんなことか分かった上で金を優先している人間もいます。こういう人達は、何かを破壊することでしか利益を得られない無価値なヤツらです。心底軽蔑します。
ただしこういった人間が存在するのは「買う人がいるから」でもあります。イシガメやその他の希少な生き物を飼育したいと思うのであればヤツらからは買わず、種の保存を妨げないように入手することが求められます。
とあるコロニーが乱獲で壊滅
このような背景を確認したうえで、もう一度冒頭の話題に戻ります。このブログにも時々コメントを残してくださっているイシガメ飼育者さんが保護していたイシガメのコロニーが、乱獲によって壊滅させられてしまったのです。
- "大事件発生です。"
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引用元
- 抜粋
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久しぶりのフィールド観察の記事をアップしたいと思います。3年越しに観察、保護してきたコロニー、本日観察に行きました。産卵シーズンを前に水路から上陸用タラップの設営の為です。
工事により産卵場所を無くした亀達、近隣の方々の協力もあり、個体数を減らす事も無く、毎朝地主さんから餌をもらって肥え太る始末。おかげで難なく冬を越し、活動が活発化してきていました。
ある方は、アカミミ亀を取り除いてくれてましたし、ある方は、甲羅干しの為の板を置いて下さいました。要約軌道に乗り始め、いよいよ産卵場所への移動通路を設置しようとした矢先、全滅です。
もう一度書きますね。全滅です。コロニー消滅です。
本日午前9時から正午までの間にクサガメを除いた成体全てと子亀、全て持ち去られました。
恐らく100匹ではきかないと思われます。この亀達、地域で飼ってるものです。水路に進入し、甲羅干しの板もゴミ止めの柵も勝手に撤去しています。私有地ですよ、あそこは。
<-後略->
上記は記事の一部の引用ですので、よければイシガメ飼育者さんのブログにて全文を確認してください。この記事以外にもかなり興味深い記事がいくつもあります。
イシガメ飼育者さんのブログの内容を見る限り、今回の問題は乱獲どうこう以前に窃盗罪ですよ。他人の敷地に勝手に入り、飼育している亀(所有物とみなされるはずです)を持ち去る、明らかに犯罪です。そして何より、色々な人がかかわって保護していた亀たちを根こそぎ奪い去るような行為はあまりにも下劣です。
今回の記事を書いたのは、一人でも多くの人にこのような非道な行いがなされているということを知って欲しかったからです。その上で可能なら、この記事を読んでくれた方にいくつかのお願いがあります。
この記事を読んだ人にお願いしたいこと
ここでお願いしたいのは大した事ではなく、亀を飼育した上での心構えみたいなものです。少しでもこういった心構えをもった飼育者が増えて欲しいというのが私の願いです。
WC個体ではなくCB個体を入手する・出所不明の亀は買わない
WC=wild-caught(野生捕獲)・CB=captive bred(人工繁殖)という意味です。野生捕獲された個体は上記のように乱獲された可能性があるため、人工繁殖された個体を買うようにしよう、という意味です。したがって、WCやCBの区別がしっかりされている専門店やブリーダーズイベントでの購入をお勧めします。
しかしこの点についてイシガメ飼育者さんは以下のような警告を発しておられます。
乱獲による被害はCBとの表記により売られる亀が原因の一つです。イシガメをメインでやろうと思えば、最低でも年間500匹は販売しなきゃ採算が合わない。これもあぶく銭での話しで、飼育個体からの繁殖に頼るとなると何処まで行っても採算が合わないのです。ですから、抱卵した親を乱獲し産ませた卵から子亀をとりCBとして販売、親は一部を残し、即戦力と言ってセット販売されます。これをすれば短期間でコロニーが絶滅します。
つまりCBと表記しながらも、実際には野生捕獲した親から勝手に生まれた個体の場合があるということです。このような時には「持ち腹」などと呼ばれることもあります。これだと本来は野生下で生まれるはずだった個体を捕まえてきたことになるので、野生個体の減少につながってしまうのです。
ぶりくら・とんぶりなどの一部のブリーダーズイベントでは、持ち腹は明記されるルールになっています。このように持ち腹についても明記されるところで購入するのがベストです。
亀を捨てない・逃さない
一度飼育下においた亀は逃がさない、ということを念頭において飼育を始めてください。これはミドリガメのような外来種だけでなく、ニホンイシガメのような在来種についてもです。
一口にニホンイシガメといっても、例えば中部地方のイシガメと九州地方のイシガメでは遺伝的に差異があります。このような差もきちんと残すことが、生物の保護には求められるのです。つまり、九州産のイシガメを中部地方で逃がしたりすると交雑の可能性を生じさせるので良くないのです。
こういった観点からも、一度飼育下に置いた生き物は絶対に逃がしてはいけません。遺伝的多様性の保存の話は置いておいたとしても、飼い主として当然のことです。
正しい知識を身につける
乱獲をしている業者の中には、手元において累代を重ねていることを「保護」だとかいう勘違い業者がいます(2chのイシガメスレとかに行けば名指しで非難されてますが)。きちんとした遺伝的な系統管理がなされていなければ、遺伝的多様性の保存という観点からは意味をなしません。これを理解した上で悪意を持って嘘をついているのか、ただ頭が悪いだけなのかは知りませんが、どっちにしろ最低です。
このような口先の屁理屈に騙されないようにする為にも、正しい知識を身につけることが必要です。意識的に情報収集をするのが良いと思います。
この記事をSNSなどで拡散する
この記事に書いた内容を少しでも多くの人に知ってもらうため、もしよければSNSなどを使ってこの記事を拡散して下さると嬉しいです。
乱獲されたという報告がネット上で物凄く拡散されたりしたら、悪質な業者も特定を恐れて乱獲を思いとどまるようになるかもしれません。そうでなくても、この記事に書いた「WC個体ではなくCB個体を入手する」といった内容や、遺伝的多様性に関する知識などが少しでも多くの人に伝われば、乱獲された個体が売れなくなったり、イシガメなどの希少な生き物の減少につながる行為が減ったりするかもしれません。
一人の力は僅かでも、多くの人の力が合わされば何かが起こるかもしれません。以下のSNSボタンから協力をよろしくお願いします!
今回はイシガメのコロニーが乱獲で消滅させられたという話を通じて、野生動物の保護について考えてみました。読者の方ひとりひとりが、この問題について考えるきっかけになれば幸いです。最後のお願いはどうにも宣伝みたいになってしまって拒否感がある方も多いと思いますが、こういう時だけなので「うげ、糞サイトだわ」みたいに思わないでもらえると助かります・・・。