水槽に流木を入れていると、流木のアクが出てだんだん水が茶色く変色してきたという経験はありませんか?好みは人それぞれですが、多くの人は水が茶色くなると汚く思えてしまい、なんとかして水をきれいな透明にしたくなると思います。
このブログでも人気の記事に、流木のあく抜き方法をまとめた記事があるので、やはり流木のアクは嫌われ者なのでしょう。
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茶色い水とは永遠にオサラバ!?流木のアク抜き方法まとめ
流木を水槽に入れると水が茶色くなることがあります。その原因である「アク」の正体と、アクを取り除き水を透明にする「あく抜き」の方法、必要なもの等をまとめます。容器・水温・薬剤等のあく抜きのコツや流木の入手方法も紹介します。
しかしこのアクは悪い成分というわけではなく、熱帯魚にとっては良い効果を与える面もあります。ブラックウォーターといって、流木のアクが出たのと同じ状態を意図的に作り出すこともあります。今回はそんなブラックウォーターの効果や作り方などを紹介します。
ブラックウォーターとは
ブラックウォーターとは、アマゾン川支流のネグロ川に代表されるような、枯れ葉等から溶け出したタンニンによって黒褐色に変色し酸性に傾いた水が流れる河川、またはそのような水質を指します。自然界でブラックウォーターとされる河川は他の河川よりも栄養が豊富であり、そのために他の河川とは大きく異なる動植物相が見られます。
本来の”ブラックウォーター”は、陸水学、地質学、地理学、生物学的な研究によって定義されるので、水が茶色ければブラックウォーターであるという訳ではないのですが、アクアリウムではそこまで厳密に考えられてはいません。
成分
ブラックウォーターは、有機酸の一種である腐植酸(フミン酸とも)やフルボ酸が溶け出した水を指すので、この腐植酸は当然ながらブラックウォーターの重要な成分です。腐植酸というのは広い範囲の物質を指す言葉で、このなかにタンニンのようなブラックウォーターと関連付けられてよく登場する物質も含まれます。
色が茶色よりも黒に近づくほど担任が多いため、多くのフミン酸が溶けだしていると考えられます。
効果
ではブラックウォーターが及ぼす効果を確認してみます。ブラックウォーターの効果は、つまるところ主成分である腐植酸やフルボ酸が水質に与える影響になります。
水質を酸性に傾ける
フルボ酸やフミン酸は酸なので、その水溶液は酸性を示します。つまりこれらの物質が含まれるブラックウォーターは酸性を示すことになります。とはいってもそこまで多くのフミン酸・フルボ酸が溶出しているわけではないので、ブラックウォーターはおおよそ弱酸性となります。
抗菌・殺菌効果
ブラックウォーターには抗菌・殺菌効果があるとも言われます。そのメカニズムは、ブラックウォーターに含まれるタンニンがもつ殺菌・抗菌効果が働くというのが一つです。もう一つは、フルボ酸やフミン酸が解けだして弱酸性の液体となっていることが、微生物の活動を鈍らせ殺菌効果に繋がっているのではないか、と考えられています。
アクアリウムで一番嫌がられる細菌といえば、赤斑病など様々な病気を引き起こすエロモナス菌ですが、この菌の発育可能条件はおおよそpH 6~11です。ブラックウォーターの効果で弱酸性にすると、この発育可能条件から外れることもあり得るので、そういった面が抗菌作用として認識されるようになったのかもしれません。
水質を軟水化する
腐植酸は金属イオンと結合し、難溶性の塩を形成する性質があります。つまり腐植酸が豊富にある環境下では、水中のナトリウム、カルシウム、カリウム等の金属イオンの濃度が低下するということです。
また水の硬度とは、簡単に言うと水中のカルシウムやマグネシウムイオンの量を表わします。軟水とは硬度が低い、すなわちこれらのオンの量が少ないということですから、水中の金属が腐植酸と塩を形成してイオン濃度が低下しているブラックウォーターは、硬度の低い軟水ということになります。
アクアリウムで飼育される熱帯魚などが好む水質は種類によって様々ですが、中にはかなりの軟水を好む酒類も存在し、そのような種の飼育にはブラックウォーターは効果的です。逆に殻の形成にカルシウムなどが必要な巻貝やエビは、ブラックウォーターでは育ちにくいです。
土壌中のアルミニウムイオン化しやすい
ブラックウォーターは酸性であるのでため、土壌中のアルミニウムがイオン化しやすい状態になります。実際にブラックウォーターとされる河川では、アルミニウムの質量濃度が他の河川よりも大幅に高くなっていることが知られています。ただこの性質は、知識不足であまりはっきりとしたことは分かりませんが、アクアリウムにはあまり関係してこなさそうです。
相性の良い生体
ブラックウォーターが特に合うとされている生体は、主にディスカスの仲間、グラミーの仲間、ベタの仲間などです。これらの魚は自然界ではブラックウォーターとなっているような環境に生息しているため、飼育下でも自然環境を再現するという意味で相性が良いです。
ただし上に上げた魚の仲間でも、ブラックウォーターではなく普通の透明な水に生息している種ももちろんいるため、もし気になる場合は詳しく確認すると良いかもしれません。まあ別にブラックウォーターが害になるということは無いのですがね。
また繁殖を目指す場合には、ブラックウォーターで飼育したほうが成功率が高くなるような種類もいるので、そのあたりも一度調べてみると役に立つと思います。
注意点
ブラックウォーターを上手く扱うためには、いくつか注意点があります。ここではその注意点を簡単に紹介しておきます。
活性炭やゼオライトに吸着される
ブラックウォーターの成分である腐植酸・フルボ酸などは、活性炭やゼオライトに吸収されてしまいます。流木のあく抜きの方法として活性炭を使うことが多くあることを考えれば当然ではあるのですが、これを忘れているといくら頑張ってもブラックウォーターにならないなんてことにもなりかねません。
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ゼオライトが様々な物質を吸着する仕組みは、こちらの記事で紹介しています。興味がある方は読んでみて下さい。
結局のところ、吸着濾過のために活性炭を使っていたり、硬度を下げるためにゼオライトを使っていたりする環境では、ブラックウォーターにできないと思っておく方が良いです。
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ブラックホールのような活性炭は色々と便利ではあるのですが、ブラックウォーター環境とは残念ながら相性が悪いということですね。
巻貝やエビは育ちにくい
水質を軟水化するという効果の項目でも触れましたが、ブラックウォーター環境では硬度が下がり巻貝やエビの殻を形成するのに必要なカルシウムなどが不足しやすいため、これらの生き物を育てるのには向きません。
タンクメイトとしてエビやイシマキガイ等を少しだけ入れるのなら大丈夫だと思いますが、ビーシュリンプのようにエビをメインで育成する場合には、わざわざブラックウォーターを使う意味はないと思います。
水草は育ちにくい
ブラックウォーターは水を茶色~黒に着色するため、どうしても水中に届く光は弱まります。植物の光合成には光が必要不可欠ですから、水草の成長は当然鈍りますね。またブラックウォーターには水草の成長を阻害する成分があるとも言われますが、陰性水草や浮草は育つことから成長を阻害する成分はあったとしても大きな影響力はなさそうです。
濾過バクテリアの働きが鈍る
ブラックウォーターの抗菌・殺菌効果は、良い面だけでなく悪い面もあります。アクアリウムの要であるろ過を支える濾過バクテリアも細菌の一種であるので、ブラックウォーターの抗菌・殺菌効果が働くと濾過能力が落ちてしまうという事があります。
全くろ過の効果がなくなるということはありませんが、新規にろ過の立ち上げを行う場合に時間がかかりやすくなる場合があります。ブラックウォーターにする場合は、立ち上げてからしばらく経ってからの方が簡単でしょう。
ブラックウォーターの作り方
ブラックウォーターは色々なものを使って作ることができます。ブラックウォーター作りに使えるものと、それを使った作り方を紹介します。
ピート
ブラックウォーターを作るものとして一番有名なのは、ピート(ピートモス)でしょう。ピートモスは「水苔」が堆積したものが地中で炭化したもので、フマル酸・フルボ酸が多く含まれています。アクアリウム用のものも販売されていますが、園芸にも用いられ、そっちの方が基本的には安いです。
ただし園芸用のものは粉末タイプが多く、アクアリウムにはやや使いにくいです。また酸の強さを調整するために石灰が混ぜられていることも多いです。石灰は魚にとって有毒のため、アクアリウムで使用する場合には無調整のものを選ぶ必要があります。
ブラックウォーターを作る場合には、ピートを不織布や洗濯ネットなどで包んでフィルターの中に入れておきます。ただしそのままでは効果が出にくいこともあるので、煮だして成分を抽出した液体を使ったり、煮だした後のピートそのものを使ったほうがより効果が出やすいようです。とくに粉末ではない長繊維のピートモスは、煮だした方が良いらしいです。
ピートから成分が溶け出しすぎると水質が酸性に傾き過ぎたりもするので、水質を図りながらピートを水槽に入れておく期間を調整します。目指す水質にもよりますが。pHが6くらいまで下がったら十分ブラックウォーターなっていると思うので、一度ピートを取り出してもよいでしょう。
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ちなみにピートを使うと、ADAが水草を簡単に育てるためのアイテムとして販売している佗び草を自作することも出来ます。こんな風に活用の巾が広く以外なところで役立ったりするのも、ピートの良いところです。
ハンノキの実(やしゃぶしの実)
ハンノキという種類の木の実にはタンニンが多く含まれるので、ブラックウォーター作りによく利用されます。「やしゃぶしの実」などという名前でアクアリウム用品としても販売されていますが、ハンノキは水に強く公園の水辺や河川敷に植えられているので都市部であっても採取が可能です(許可が必要な事もあります)。またクリスマスシーズンには飾りとしても販売があるようです。使い方は基本的にピートと同じです。
マジックリーフ
マジックリーフなどというちょっと危なげな名前がついていますが、これもブラックウォーター作りに使うことができます。マジックリーフは何の葉なのかと調べてみたのですが、「シクンシ科モモタマナ属の落葉高木」「アンブレラツリー」「インディアンアーモンドツリー」など、統一されているわけではなく色々な種類の木の葉が「マジックリーフ」という名で販売されているようです。
これらの葉の共通点は広葉樹の葉ということくらいで、ただの落ち葉を水槽に入れているのと大差ないのではないかという意見もあります。さすがに残留農薬などの処理くらいはしてあると思うので、安全性の面では多少利点があると思いますが、実際に普通の落葉樹の落ち葉を入れているだけでもブラックウォーターにはなるので割高感は否めません。
使い方は水槽に入れるだけで、すると徐々に成分が溶け出してきます。ピートやハンノキの実と比べて成分が溶け出しやすい分、水槽内で分解されるのも早く、崩れた葉の屑が景観を損ねやすいため少量をこまめに交換しながら使う必要があります。個人的にはこれよりもピートとかやしゃぶしの実の方がまだ扱いやすそうに思います。
テトラ ブラックウォーター
テトラ ブラックウォーターは、アクアリウム用品メーカーとして有名なテトラから販売されているブラックウォーターを作るための水質調整剤です。天然ピート抽出液が主成分とされているので、ピートと同じような効果をかなり手軽に得られるのが良い所です。
ただし手軽さはありますが値段は結構高めです。500mlで2000円くらいはするので、多少高級な添加剤と言えます。手間を取るかコストを取るかの兼ね合いといったところですね。
おすすめのブラックウォーター利用法
ここまででブラックウォーターの効果と作り方を紹介しました。つまるところ弱酸性の軟水+有機酸(フミン酸・フルボ酸)の環境を作るのにブラックウォーターが有効ということですが、ピートやハンノキの実を使ってブラックウォーターを作るのは濃度調整などが難しく結構大変です。
それならば弱酸性の軟水を作る効果のあるソイルにテトラ ブラックウォーターなどの添加剤を使う方がかなり扱いやすいです。いちいちピートを煮だしてブラックウォーターを作るなんていう手間のかかる作業は、いつか必ず手を抜くようになります。
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こういった手抜きが思わぬ悪影響を及ぼすということは、アクアリウムではもの凄く良くあることなので、長い目で見た安定性も考慮した上で、私個人としては「ソイル+添加剤」でのブラックウォーター化をおすすめします。
ブラックウォーターの効果・作り方まとめ
ブラックウォーターの効果・成分・作り方などを紹介しました。最初は茶色い水はちょっと…と思っていても、慣れると意外に雰囲気があってかっこよく見えてきたりします(笑)。ディスカス・グラミー・ベタなどを飼育している方、または飼育を考えている方は、この機会に一度ブラックウォーターを導入してみてはいかがでしょうか?