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アートアクアリウムって何だ?これはアートだけどアクアリウムじゃない

2017/08/12

アートアクアリウム2017 日本橋会場入口

ここ数年、アクアリウム関連のイベントで急激に人気がましているものがあります。それが金魚を中心とした展覧会である「アートアクアリウム」です。

今回はアートアクアリウムがどんなイベントなのかを紹介するとともに、一部で批判を受けている点にも言及し、アートアクアリウムとはいったい何なのか、という点を考えてみます。

アートアクアリウムとは

アートアクアリウムは、アートアクアリウム アーティストの木村英智氏がプロデュースする水中アート展覧会です。和をモチーフにした、金魚鉢のようなデザイン性の高い水槽と、近年急速に普及してきたLEDライティングやプロジェクションマッピングなどの技術を融合させ、幻想的な空間を作り出しています。

2007年より日本各地で開催されています。

過去の開催情報

アートアクアリウムは、2007年にその前身と言える「スカイアクアリウム」が始まったことに端を発します。スカイアクアリウムの好評を経て、2010年から日本各地で「アートアクアリウム」の名称で展覧会を開催しています。

過去の開催履歴は、以下の表にまとめたとおりです。

開催年 会場
2007 東京(スカイアクアリウム)
2008 東京(スカイアクアリウム)
2009 東京(スカイアクアリウム)
2010 京都
2011 東京(スカイアクアリウム)
神戸、東京
2012 東京、大阪
2013 東京、名古屋、札幌
2014 大阪、博多、東京、名古屋、京都
2015 大阪、長野、東京、広島、沖縄、京都、ミラノ
2016 博多、大阪、東京、金沢
2017 東京、京都
2018 博多、東京、名古屋、上海
2019 東京、熊本

こうしてまとめてみると、年によって開催場所も回数も少しずつ違うことがわかります。好きな人は行きそびれないように気を付けたほうが良さそうです。

アートアクアリウム美術館

2020年8月28日には、アートアクアリウム初の常設展示として、「アートアクアリウム美術館」がオープンします。過去に人気を博した作品に加えて、新しい音響・照明システムを取り入れた映像演出、初披露となる新作の登場などが予告されています。

営業時間 10:00~22:00
休館日 なし(年中無休)
入館料 2300円(大人・中学生以上)
無料(小学生以下)
所在地 〒103-0023
東京都中央区日本橋本町1丁目3番9号
公式サイト https://artaquarium.jp/

(参考)2017年の開催期間・場所・値段

参考までに、この記事を最初に公開した年である2017年のアートアクアリウムは、東京・日本橋と京都・二条城で2回に分けて開催されました。

会場 東京
日本橋三井ホール
京都
元離宮二条城
開催期間 7月7日(金)~9月24日(日) 10月25日(水)~12月11日(月)
値段・料金 一般(中学生以上) 1,000円/900円(当日/早割)
子ども(4歳以上・小学生以下) 600円/500円(当日/早割)
一般(中学生以上) 1,500円
子ども(4歳以上・小学生以下) 1,000円
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アートアクアリウムの主役は「金魚」

アートアクアリウムは、和をモチーフにした水槽の展示がメインで、展示されている生体も金魚が中心です。水生生物を展示している場所といえば水族館ですが、水族館では国内外の野生下に存在する海水魚・淡水魚を展示するのが主流です。

金魚のような野生下に存在しない生き物を一般向け(金魚の品評会等は除く、という意味です)に展示しているイベントは珍しいですね。

超大型の金魚鉢「超 花魁」

アートアクアリウム 2017 超 花魁(日本橋)

アートアクアリウムの目玉展示とも言えるのが、この「超 花魁」という巨大金魚鉢です。凝ったデザインの金魚鉢から水をかけ流す作りになっていて、中の金魚をライトアップして展示しています。

アートアクアリウム 2017 超 花魁(日本橋)その2

LED照明は時間とともに色が変わる仕掛けになっており、名前のとおり非常に派手な金魚鉢です。

金魚品評会のような雰囲気の「九谷金魚品評」

アートアクアリウム2017 九谷金魚品評

もう少し落ち着いた展示を見たい人は、こちらの「九谷金魚品評」という展示が気にいるでしょう。石川県南部の名産品である九谷焼を使い、金魚品評会のように上見で金魚を観賞する展示です。

豪華絢爛な水槽の多いアートアクアリウムにおいて、数少ない落ち着いた雰囲気の展示です。個人的には、伝統的な金魚の楽しみ方を踏襲したこの展示が結構好きです。

多彩な金魚鉢の展示が多数揃う

アートアクアリウム 2017 展示案内板

上の写真はアートアクアリウム会場にあった展示内容の案内板ですが、このように紹介した以外にも多数の展示があります。どれも水槽の作りから凝っている展示ばかりで、見ごたえがあると思います。

お土産やカフェメニューはちょっとお高め

アートアクアリウでは、単純に展示されている金魚を眺めるだけでなく、近くにあるカフェでスイーツを楽しんだり、グッズコーナーでお土産を買うことも出来ます。

アートアクアリウムのカフェメニュー

一例ですが、カフェメニューはこんな感じですね。真ん中が金魚鉢ゼリー 700円、右側が金魚のデザインカプチーノ 600円です。ちょっと高いですが、イベント価格なのでこんなものでしょうか。

夜間限定イベント「ナイトアクアリウム」

アートアクアリウムでは、夜間(19:00以降)限定の「ナイトアクアリウム」というイベントがあります。昼間は純粋に金魚などの展示を楽しむだけですが、ナイトアクアリウムでは、舞などのイベントが開催され、アルコール類の販売も行われます。

ナイトアクアリウム 獺祭ナイト

人気の日本酒「獺祭」とのコラボレーションイベントも開催しており、きらびやかな金魚鉢を眺めながら獺祭を味わうことも可能です。

その他にも、ナイトアクアリウムでは日によって、DJプレイや芸姑・舞妓の踊り、バイオリンコンサートなどのイベントが開催されます。

アートアクアリウムの光と陰

さて、アートアクアリウムの紹介的な前置きはこれくらいにして、本題に入っていきましょう。

アートアクアリウムはその幻想的な演出が非常に人気ですが、一方で「残酷だ」「虐待じゃないの?」といった批判を常に浴びているイベントでもあります。この点について、アクアリスト(アクアリウムが趣味の人)であるK-ki(K-ki@AquaTurtlium)の視点から考えて行こうと思います。

アートアクアリウムの目的は飼育じゃない

アートアクアリウム2017 アンドンリウム

アートアクアリウムを考える上で一番特徴的なポイントが、アートアクアリウムの目的は金魚を見せることではない点です。個人的な解釈かもしれませんが、アートアクアリウムでは金魚を含めた空間を「アート」として展示していて、金魚はその構成要素に過ぎません。

つまり、金魚の状態を良くすることが最重要ではないんですよね。アートとして必要があるなら、強い原色のLED光線を当て続けたりもするわけです。このあたりが水族館とは根本的に違うポイントです。

例えば、犬や猫にLEDライトを巻きつけて無理やり踊らせ、「アートだ」と言ったらどうなるか考えてみましょう。「虐待だ」という人はいても、「きれ~い」とか言いながらスマホで写真撮ってインスタにアップする人はほとんどいないんじゃないでしょうか。アートアクアリウムに対する批判はこのような感覚から起こっていると思われます。

「展示動物の飼養及び保管に関する基準」に照らし合わせてみる

ただ、こんなことを言っていても主観の話にしかならないので、もう少し世間一般の「ルール」に基づいた議論をしてみましょう。

動物の展示に際しては、「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」に基づき環境省が定めた、「展示動物の飼養及び保管に関する基準((環境省告示第33号, 展示動物の飼養及び保管に関する基準, 平成16年4月30日))」に準拠することが望ましい、とされています((日本獣医師会雑誌, 展示動物の飼養及び保管に関する基準の見直し))。この基準に定められている内容の中で、アートアクアリウムに関して特に気になるのは、以下の2項目((環境省, 展示動物の飼養及び保管に関する基準の解説, 平成17年3月))です。

  • 管理者及び飼養保管者は、動物が命あるものであることにかんがみ、展示動物の生態、習性及び生理並びに飼養及び保管の環境に配慮しつつ、愛情と責任をもって適正に飼養及び保管するとともに、展示動物にとって豊かな飼養及び保管の環境の構築に努めること。
  • 管理者は希少な野生動物等の保護増殖を行う場合を除き、展示動物が終生飼養されるよう努めること。

以下で、アートアクアリウムがこの基準を満足しているのか、もう少し詳細に検討してみます。なお、これは法令ではなく告示なので、遵守する義務もなければ当然罰則もありません。そしてそもそも、魚類は動物愛護管理法の対象外なので、法律的にはこの議論自体がナンセンスです。あくまで動物展示の際の目安として、「展示動物の飼養及び保管に関する基準」を参考にしている点に留意してください。

適切な飼育環境といえるのか?

1点目は「環境エンリッチメント」と呼ばれる話ですね。環境エンリッチメントとは、飼育環境の改善等によって飼育動物に刺激を与え、異常行動の減少・野生に近い行動の増加などを通じ、動物の精神的な健康を改善するものです。

金魚のような人為的に生み出された野生下に存在しない種では、野生に近い行動を定義するのが難しいですが、それでもLEDを照らし続けるような環境は「展示動物にとって豊かな飼養及び保管の環境」とは言えないのではないでしょうか。

アートアクアリウムの運営側が、この点についてどのように考えているのか、ぜひとも教えてほしいところです。

終生飼育に努めているのか?

2点目は、よくある疑問で「アートアクアリウムで展示された金魚はその後どうなるのか」という話です。公式サイトによると、アートアクアリウムでは「金魚を中心に海の魚たちも交えた約8,000匹の観賞魚」を展示しているそうですが、これだけの数の魚が会期後にどこに行くのかは不明です。

現実問題として、8000匹もの魚を常に飼育し続けるのは、水族館や大規模なショップでもない限り難しいでしょう。そのため、どうしても良からぬ方向に考えが及んでしまいます。

開催者は金魚についての問い合わせに回答していない

私としても根拠のない推測で議論はしたくないので、アートアクアリウムに金魚の行方について問い合わせてみようと思い、公式サイトのお問い合わせページを開きました。すると、以下のような文言が目に入りました。

個人的なご意見・ご質問、金魚の生体についてのお問い合わせは、ご回答できません。あらかじめ、ご了承ください。

こういった対応方針も、不信感を招く一因になっているんじゃないかな、と思います。アートアクアリウムを運営する上で、金魚の扱い方等のノウハウは秘密事項であり、公開できない、という理由なのかもしれません。また、プロデューサーの木村英智氏は、もともと「世界中から海の魚を専門に集める仕事」をしていたそうなので、そのコネでこのくらいの数の魚を一時的に集め、会期終了後に返却、とかいう事ができるのかもしれません。

しかし、問い合わせに回答してくれないので、実際どうなのかが全然分からないんですよね。念のため、会期中の金魚の死亡率と、会期終了後の金魚の取り扱いについて質問メールを送ってみましたが、案の定返信はありませんでした。

Google等の検索エンジンでは、「アートアクアリウム」の関連キーワードとして「金魚 その後」「ひどい」「かわいそう」などの言葉が挙がってきています。少なからず金魚の扱いについて疑問の声が上がっている中、いつまでもこうした対応ではまずいんじゃないでしょうか。

企業コンプライアンスが強く意識される昨今ですから、法令違反ではないとは言え企業倫理の観点から、もう少し透明性の高い対応をしてほしいです。

アートアクアリウムは新時代の金魚文化なのかも

九谷金魚品評 その2

一方で、アートアクアリウムのやることなすこと全てが悪いかというと、当然ながらそんな訳はありません。金魚を金魚鉢に入れて観賞するというのは、江戸時代から続く日本の文化です。アートアクアリウムは、そういった金魚文化の延長にあるとも考えられます。

もちろん日本の伝統的な金魚文化は、金魚鉢で飼育することだけではなく、生体にとってより良い環境を整えるために池等で飼育することも多いです(むしろそっちが主流)。それでも、金魚文化の一角に「金魚鉢で観賞する」というスタイルがあることは間違いないでしょう。

観賞魚の飼育用品も普及し、動物福祉などの考えも広がってきた昨今においては、金魚鉢というスタイルは時代に合わなくなってきているのかもしれません。そんな中でアートアクアリウムは、動物福祉とは別の考え方で、時代にあった文化へと変化しようとした結果だ、と考えることも出来ます。この意味では、生体の管理の仕方という観点のみでアートアクアリウムを批判するのはナンセンスなように感じられます。

アートアクアリウムはアートだけどアクアリウムじゃない

生き物を飼っている人は、大なり小なり飼育生体に対してリスペクトを持って接しています。はっきり言ってアートアクアリウムからは、飼育環境の整備からも、終生飼育の観点からも、そして生体の魅せ方からも、それがあまり感じられません。生き物を扱う展示であることに意味を見出すなら、少なくとも会期後の金魚の処置については、どうしているのかを明確にすべきではないでしょうか。

それができないなら、いっそのこと割り切って「金魚なんて消耗品です」って言い切るくらいの「アート」としての展覧会にして欲しいです。現状の、要点をうやむやにしながら響きのいい「アクアリウム」という言葉だけ使って、内実はアクアリウムとはかけ離れたイベントをやるというスタンスが、個人的には一番しっくりこないポイントです。

結局のところ、今の運営方針から鑑みるに、アートアクアリウムとアクアリウムは似て非なるもの、と結論付ける他ありません。個人的には、照明の問題はあるにしろ粗雑な管理をしているとまでは思わないため、「金魚虐待だ!」とか言うつもりはありません。ただ、このイベントを「アクアリウムだ」と宣言することには強い拒否感があります。「アート金魚鉢」くらいの名前なら、特に何も思うことはないんですけどね。

K-ki

アートアクアリウムは、イベントとしてはきっと面白いんだと思います。ただ、アクアリウムを趣味にしているような、生き物自身のカッコよさ・美しさが好きな人には、はっきり言ってあまり合わないイベントだとも思います。うやむやにしているポイントを明確化した上で、本来ターゲットになる人によりフォーカスしたマーケティングができると、イベントとしてさらに発展していくんじゃないかと思います。

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K-ki

K8ki・けーきはK-kiのシノニム。 AquaTurtlium(アクアタートリウム)を運営しています。 生き物とガジェットが好きなデジタル式自然派人間。でも専門は航空宇宙工学だったりします。 好きなことはとことん追求するタイプ。

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