大磯砂は底面フィルターとの相性がよく、工夫すれば水草の育成も可能で、アクアリウム水槽ではよく利用される底砂です。しかし、水質をアルカリ性・高硬度に傾ける性質があります。K-ki(K-ki@AquaTurtlium)が以前90cm水槽に大磯砂を使っていたときも、亀を飼育していて水質が酸性に傾きやすい環境であったにも関わらず、pHは7.5程度はあったので、大磯砂は水質に結構な影響を与えていることがわかります(大磯砂を止めたらpH5.0くらいまで下がることもありました。)。
アクアリウムで飼育される水草・熱帯魚の多くは、弱酸性・低硬度の水質を好むため、大磯砂をそのまま使っても熱帯魚や水草にとっては良い水質を作ることは難しいです。しかし、今回紹介する「酸処理」を行うことで、大磯砂を使っても水質がアルカリ性・高硬度に変化しないように出来ます。
酸処理には化学反応を利用するため、場合によっては十分な注意が必要になります。このページを読んで手順をよく理解した上で実践しましょう。
大磯砂の酸処理が必要な理由
まずは、大磯砂を使う際に酸処理が必要になる理由を解説します。大磯砂の特徴や使い方については、以下のページでも紹介しているので、大磯砂を水槽の底砂に利用しようと思っている方は、ぜひ読んでみてください。
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大磯砂の活用:底面フィルター・水草水槽との相性や酸処理
アクアリウム水槽の底砂に利用される大磯砂について解説します。大磯砂は安価で半永久的に使用でき、通水性の良い底砂で、底面フィルターと相性が良いです。一方、貝殻を含むため水質をアルカリ性に傾けやすく、酸処理をしたほうが良い場合もあります。工夫すれば水草育成も可能です。
水草や熱帯魚は弱酸性・低硬度の環境を好む
上にも書きましたが、アクアリウムで飼育・栽培される熱帯魚や水草の多くは、弱酸性・低硬度の水質を好みます。この理由には主に以下の2つがあります。
- 原産地の水質が弱酸性・低硬度のため。
- 弱酸性の水質では二酸化炭素の溶解率が高く、光合成の効率が上がるため。
一つ目は簡単で、アクアリウムで飼育されるような熱帯魚や水草の多くは、本来はアマゾン川のような弱酸性・低硬度の水質の河川・湖沼に分布しているからです。原産地の環境に近いほうが、当然ながら生き物の状態は良くなります。また、pHの変動によって繁殖のスイッチが入る熱帯魚も少なからず存在します。
二つ目は、pHが低いほうが、水草の光合成に必要な二酸化炭素(CO2)が多く水中に溶けているからです。植物にとって光合成は、生きるために必要なエネルギーを得る非常に重要な活動です。このため、弱酸性の水質のほうが水草の状態が良くなります。
大磯砂は海砂で貝殻やサンゴ片を多く含む
大磯砂は元々は、神奈川県の大磯海岸の砂利のことを指していました。現在は、大磯海岸の砂が採取禁止になったこともあり、フィリピンなどの海外から輸入された砂を「大磯砂」という名前で販売していますが、どちらにしろ海岸の砂利であることに変わりはありません。
海岸の砂(海砂)は、川の砂利に比べて貝殻やサンゴのかけらを多く含んでいます。これが1つのポイントになります。
貝殻やサンゴは水に溶けてアルカリ性を示す
貝殻やサンゴの主成分は炭酸カルシウムです。この炭酸カルシウムは難溶性の塩ですが、水中でわずかに溶け、その水溶液は塩基性を示します。
つまり、これが水槽の底砂に大磯砂を使った際に、水質がアルカリ性に傾く原因です。また、硬度はカルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオン(Ca2+)が増えると上昇するので、明らかに、炭酸カルシウムが溶けることによって硬度は上昇します。
貝殻≒炭酸カルシウムを溶かすのが酸処理
ここまで来ると想像がつくと思いますが、酸処理とは、大磯砂に含まれる炭酸カルシウム(貝殻・サンゴなど)を溶かして、除去するということです。貝殻やサンゴを手で取り除いてもよいのですが、それでは手間がかかりすぎるため、溶かして一気に除去してやろうという方法です。
グッピーや金魚の飼育では酸処理は不要
大磯砂の酸処理は必ずしも必要というわけではありません。上に書いた「水草や熱帯魚が弱酸性・低硬度の環境を好む理由」を踏まえて、弱酸性・低硬度の環境を用意する必要が無いと判断した場合には、酸処理は必要ありません。
水草は基本的に弱酸性の水質のほうが良いですが、熱帯魚・観賞魚などの生体に関して言えば、グッピーや金魚のように弱アルカリ性の水質を好む(または水質に頓着しない)種類もいます。これらの生き物だけを育てる場合には、わざわざ酸処理をする必要はないと言えるでしょう。
また、大磯砂は自然の砂利ですから、購入したロットによっては貝殻や珊瑚をほとんど含んでおらず、酸処理をしなくてもほぼ中性の水質を保つこともあります。酸処理をするかどうかは、必要性に応じて判断してください。
酸処理のために用意するもの
酸処理を行うためには以下の道具が必要です。
- 塩酸、酢酸、クエン酸などの酸
- 大磯砂が入るプラスチック容器
- かき混ぜるためのスコップなど
- (必要に応じて)中和用の重曹など
上記リストの上から3つは必須です。また、塩酸や濃度の高い酢酸などを利用した場合、廃液を捨てる前に中和する必要があるため、この場合には中和剤が必要になります。
酸
貝殻やサンゴを溶かすために必要なのが酸です。酸処理には、塩酸、酢酸、クエン酸などが使われますが、それぞれに長所・短所があります。詳しくは次の酸処理に使用する酸の種類・特徴と選び方の項目で解説します。
プラスチック容器
大磯砂と酸を入れる容器として、プラスチック性のタライや衣装ケースが必要です。金属製のものは酸で溶けてしまうため、溶けることのないプラスチック製のものを利用します。
スコップ
酸処理をする際は、貝殻やサンゴがよく溶けるように混ぜる必要があります。これも上と同じく、さんで溶けないようにプラスチック製のものが必要です。
中和剤
酸処理に使った酸は、濃度によっては捨てる前に中和する必要があります。強い酸性の液体をそのまま捨てると、水道管の腐食や環境破壊に繋がってしまうので注意してください。中和に使える物質には色々なものがありますが、取り扱いが簡単な重曹を使うのがおすすめです。
酸処理に使用する酸の種類・特徴と選び方
貝殻や珊瑚を溶かす酸には、塩酸、酢酸、クエン酸などが利用できます。それぞれの特徴を簡単にまとめると以下のようになります。
塩酸(サンポールなど)
塩酸は強酸であり短時間で酸処理を行うことが出来ますが、10%以上の濃度のものは劇物に指定され購入時に印鑑が必要になるなど、「毒物及び劇物取締法」の対象となります。また、皮膚につくと皮膚が溶けてしまうなど危険性も高いです。
取り扱いに注意が必要なため、薬品の扱いに慣れた人以外は使用しないほうが良いでしょう。ただし、トイレ用洗剤として販売されているサンポールなど、低濃度(10%以下)のものであれば、比較的安全に使用できます。
ちなみに、時々勘違いしている人がいますが、ハイター(キッチンハイター)は塩酸ではなく塩素系漂白剤なので、酸処理には使用できません。
酢酸(食酢・木酢液・停止液)
酢酸は塩酸よりも安全に使用でき、食酢や木酢液などは入手も容易であるため酸処理によく利用されます。ただし、ニオイがきついのが難点です。
食酢や木酢液(約5%酢酸)よりも濃度の高い、写真現像時の停止液である富士酢酸(50%酢酸)を利用すると、より効果的に酸処理を行うことが出来ます。富士酢酸を利用する際は、水で5倍程度に薄め、10%酢酸として利用するくらいで十分な酸処理効果を発揮することが出来ます。
クエン酸
塩酸、酢酸が液体なのに対し、クエン酸は固体(粉末)で販売されています。トイレやキッチンなど水回りの洗浄剤としてもよく利用されますね。少し入手しにくいですが、薬局や100円ショップなどで販売されています。酢酸や塩酸と比べると安全性が高いところにメリットがあります。
酸処理に利用する場合は、水1リットルに対し100g程度のクエン酸を溶かして利用すると良いでしょう。ただし、クエン酸によって溶かされた炭酸カルシウムは、クエン酸カルシウムという難溶性の物質に変化します。つまり、クエン酸で貝殻を溶かすと、白い粉が沈殿してしまう、ということです。
そのため、クエン酸で酸処理をした後は、水洗いによって大磯砂からクエン酸カルシウムを取り除く必要があります。また、場合によっては石や砂利の表面にクエン酸カルシウムがこびりついて取れなくなってしまう場合もあることに注意してください。
補足説明
酸処理に利用する酸は、扱いやすく効果も高い酢酸(富士酢酸)をおすすめします。安全性を重視するなら、クエン酸も良いですが、生成されるクエン酸カルシウムを取り除くのが少し面倒です。
酸処理の手順
必要な道具が揃ったら、さっそく酸処理に取り掛かりましょう。以下で大磯砂を酸処理する具体的な手順・やり方を解説します。
大磯砂をよく洗う
まずは大磯砂をよく洗いましょう。これは、砂利についている泥、塩分、その他のゴミなどを取り除くことが目的です。目立つ大きさの貝殻やサンゴの欠片が混ざっていたら、このタイミングで取り除いておきましょう。お米を研ぐような感覚で洗うのがコツです。
大磯砂を洗った水が濁らなくなる程度を目安によく洗いましょう。可能であれば、水洗いの後に煮沸しておくと、さらに不純物を取り除くことができます。
天日干しで大磯砂をよく乾燥させる
洗った大磯砂は一度完全に乾燥させます。この次の行程で、塩酸や酢酸といった酸性の水溶液に大磯砂を漬け込むことになるのですが、その際に水溶液が薄まってしまうことで酸処理の効果が低下してしまわないようにするためです。
乾燥させる際は、ブルーシートの上などに薄く拡げて天日干しすると乾きやすいです。ただし、薄く拡げすぎると風でブルーシートごと飛ばされてしまうこともあるので注意しましょう。
酢酸・クエン酸等に浸してかき混ぜつつ待つ
乾燥した大磯砂を、衣装ケースなどのプラスチック製容器に入れ、少なくとも大磯砂が全て浸かる量の酢酸やクエン酸水溶液を入れましょう。目安としては、15kgの大磯砂に対して5リットル程度の液体が必要です。例えば、大磯砂が15kgだとすると5リットル程度の液体が必要なので、水4ットル、富士酢酸(50%酢酸)1リットル程度の割合で混ぜると良いでしょう。
注意
酢酸を水で薄めたり、クエン酸を水に溶かしたりするときには、必ず先に水を入れてから酢酸やクエン酸を投入してください。高濃度の酸に少量の水を加えると、化学反応による熱で酸が飛び散る場合があり非常に危険です。
大磯が全て隠れるまで酢酸またはクエン酸水溶液を加えて少し経つと、水面にボコボコと泡がのぼってきます。これは、化学反応によって貝殻や珊瑚が溶けている証です。貝殻が良く溶けるように、プラスチック製のスコップなどを使ってよくかき混ぜてください。
この大磯砂を1~2週間、1日に2~3回かき混ぜます。蒸発して液体が減ってきたら、大磯砂が十分に浸る程度まで水を足してください。かき混ぜも泡が出なくなれば、貝殻やサンゴが溶け切ったということなので、溶かす作業は完了です。
注意
使用する酸によっては有毒ガスが発生する場合もあるため、酸処理は必ず屋外で行ってください。
酸性液をよく洗い流す
貝殻を溶かし終わったら、酸処理に使った液体を別のバケツなどに移してから、大磯砂を水で入念に洗浄します。大磯砂に付着した酸や、化学反応によって生じた不要な塩(クエン酸カルシウムなど)を除去することが目的なので、流水でよく洗い流すのが良いでしょう。水が濁らなくなる程度まで洗い、ざる等で水を切れば、大磯砂を水槽の底砂として使用する準備が整ったことになります。
酸処理の酸として、サンポールや酢酸など臭いの強いものを利用した場合には、なかなか臭いが落ちない場合もあります。しっかり洗っても、酸を完全に除去するのは難しいですし、多少残っていても水槽内の水質に大きな影響は与えません。念のため、洗った大磯砂を水槽に入れて水を張ってからpHを測定し、pH6~7.5くらいであれば問題ないと判断して良いでしょう。
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廃酸を中和する
上の行程で取り分けた、酸処理に使った酸性水溶液(酢酸など)は、濃度によっては捨てる前に中和する必要があります。中和に使える物質にも様々なものがありますが、取り扱いが簡単な重曹を使うのがおすすめです。
取り分けた酸の入った容器に少しずつ重曹を入れていき、泡が立たなくなったら中和完了です。場合によっては多少pHの偏りが残っていることもあるため、さらに水で薄めて流せば安心です。
水槽レイアウトに使う石の酸処理法
水槽に入れるものの中で、大磯砂の他にも酸処理が必要なものに、レイアウト用の石が上げられます。石は種類によってカルシウムやマグネシウムを多く含むものがあり、水の硬度が上げてしまって、水草が上手く育たないことがあるためです。
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石組水槽で水草繁茂のカギになる!?風山石の酸処理の方法
アクアリウム水槽に風山石や龍王石などのレイアウト素材の石を設置する際に行う酸処理を紹介します。大磯砂などでも行われる酸処理は、石や砂利表面の炭酸カルシウムを予め溶かし、水槽内に溶け出て飼育水の硬度やpHが上がるのを防ぎます。
石の酸処理の方法はこちらで紹介していますが、基本的には大磯砂の酸処理と同じやり方です。ただし、石は硬度物質の塊なので、酸処理でカルシウムやマグネシウムを取り除けたとしてもそれは表面のみであり、しばらくすると内部から徐々に溶け出してきてしまう可能性もあります。
どうしても軟水化出来ない場合は、ゼオライトのような軟水化効果をもった吸着剤を使うことも検討してみましょう。
今回は、アクアリウムの底砂として人気の大磯砂について、酸処理のやり方を解説しました。飼育水槽の環境によっては必ず必要なわけでもないですが、水草を育てたり、水質にうるさい熱帯魚・エビ(シュリンプ)を飼う場合には、ぜひとも知っておきたいテクニックです。一度試してみてくださいね!