• 最終更新日:2017/03/10 約9分

オブロンガ?ルゴッサ?ジーベン?ヘビクビガメのややこしい学名

ジーベンロックナガクビガメ(チリメンナガクビガメ)
ジーベンロックナガクビガメ / OpenCage.info

亀は現在、世界でおよそ300種類ほどが存在していると言われています。しかしこれは種として分類されている数であり、世界にはまだ知られていないたくさんの亀がいるはずです。まだ誰も見たことのない亀が、これからも少しずつ発見され続けていくことでしょう。どんな亀が現れるのか楽しみですね。

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一方で、分類というのは人間の手によって行われるものであり必ずしも正しいものではありません。特に近年の遺伝子解析技術の発展によってこれまでの分類が訂正されることも多いです。今回はそんな人間の間違いが引き起こしてしまった、なんともややこしいネーミング問題を紹介します。

潜頸亜目と曲頸亜目

まずは今回話題の中心となるヘビクビガメについて簡単に紹介しておきます。ヘビクビガメは種の名前ではなく科の名前です。もう少し詳しく言えば、爬虫綱カメ目曲頸亜目ヘビクビガメ科ということになります。

爬虫綱は爬虫類、カメ目は亀全体を表す分類ですが、曲頸亜目というのは何を表すか分かるでしょうか。まずその辺りについて説明していきます。

潜頸亜目

潜頸亜目は潜頸類とも呼ばれ、いわゆる普通の亀はほとんどがこの亜目に分類されます。甲板の枚数やらなんやらの細かな特徴は置いておいて、潜頸亜目であることを示す一番の特徴は、首を縦方向にS字に曲げることで甲羅に引っ込めるという点です。

20130624_477945
Baby Turtle / FotoDawg

すると当然ですが引っ込めた後の顔は上の写真のように前を向いています。亀が甲羅に首を引っ込めた姿といえばこんな状態をイメージする人が多いはずです。

曲頸亜目

一方ヘビクビガメ科の属する曲頸亜目(曲頸類)は、普通の亀とは一味違った方法で首を甲羅に収納します。まずは下の写真を見て下さい。

Chelodina oblonga gnangarra

曲頸類を初めて見る人にとっては、ちょっとギョッとするような首の向きをしています。実は曲頸類に分類される亀は、首を縦方向ではなく横方向に折り曲げることで甲羅に収納するんです。

Pelomedusa subrufa

従って甲羅に首を引っ込めた状態を前から見ると、上の写真のように顔が横向きになっています。とても特徴的で面白いですよね。こういった変わった形態やそこから感じられる野性的な雰囲気、恐竜のような独特の動きなどが曲頸類の魅力です。

命名騒動に巻き込まれた亀

ヘビクビガメの分類について簡単に説明したところで、今回紹介する学名命名騒動に巻き込まれてしまった亀を紹介します。曲頸類は学名で呼ばれることも多いのですが、今回は学名が変更になった話なので分かりやすくするため和名で紹介します。

チリメンナガクビガメ(ジーベンロックナガクビガメ)

春日井カエルまつり 2014 No - 05:ジーベンロックナガクビガメ
春日井カエルまつり 2014 No – 05:ジーベンロックナガクビガメ posted by (C)kyu3

ジーベンロックナガクビガメは曲頸類の定番ともいえる、安価で流通量も安定したメジャーな亀です。多くの人にとっては、見たことのある曲頸類といえば恐らくこの亀を指すことになると思います。

名前のところが「チリメンナガクビガメ(ジーベンロックナガクビガメ)」となっている理由は、下のヘビクビガメの命名騒動の項目で説明します。

コウホソナガクビガメ

Chelodina oblonga 1

コウホソナガクビガメは、以前は学名にちなみ「オブロンガ」と呼ばれていた亀です。流通量が少なくレアな亀だったこともあり、人気が高く高値で取引されていました。しかし学名騒動の結果、オブロンガという名前ではなくなってしまいました。

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学名の付け方のルール

ヘビクビガメの学名論争の本題に踏み込む前に、簡単に学名の付け方のルールを紹介しておきます。これを知ってから以下の内容を読んだほうがきっと分かりやすいはずです!

とは言っても命名規約は複雑で難しいですし、私自身もよく理解しているわけではないので、この騒動に関連する部分のみを簡単に抜き出して紹介します。

国際動物命名規約

動物の学名は国際動物命名規約に従って命名されます。

国際動物命名規約(こくさいどうぶつめいめいきやく International Code of Zoological Nomenclature, ICZN)とは、動物命名法国際審議会 (International Commission on Zoological Nomenclature, ICZN) による、動物の学名を決める際の唯一の国際的な規範である。同様の任にある国際藻類・菌類・植物命名規約、国際細菌命名規約とあわせて、生物の学名の基準となっている。現在の最新版は第4版(1999年)。本規約が定めるのはあくまで学名の適切な用法であり、分類学的判断には一切関与しない。

引用元: Wikipedia

今回問題となるヘビクビガメの学名も、当然この国際動物命名規約に従う必要があります。Wikipediaに詳細な説明があるので、気になる方はこちらも読んでみると参考になると思います。

先取権の原則

同一の種に別々の人物が異なる学名を命名して記載論文を発表した場合、原則として先に発表された学名が有効となる。逆に、別々の種に同じ学名が命名されてしまった場合にも、原則として先に発表された学名が有効となる。これを先取権の原則という。同一の種が異なる名を持つことはシノニム(異名・同物異名)、別の種が同じ名を持つことはホモニム(同名・異物同名)と呼ばれる。

引用元: Wikipedia

動物にはものすごくたくさんの種類がありますから、付けた名前が被ってしまうこともあるんですね。その場合には、先に発表された学名が有効になるという先取権の原則というものが定められています。

一つの種類に名前が幾つも付いてしまった場合には、有効とされる名前以外はシノニムと呼ばれます。このブログの著者紹介の欄に書いてあるシノニムという言葉には、実はこんな意味があったんです(笑)。

命名と模式標本

学名が指し示す対象は、厳密にはその「種」ではなく、記載者が記載論文で指定した「模式標本(タイプ標本とも)」そのもののみである。

たとえば、記載者がある、ごく身近で一般的な種「A」に「a」という学名を命名するために指定したつもりの模式標本が、後に、非常に近縁で紛らわしく、たいへん珍しい別の種「B」であると判明した場合には、これまで広く使用されよく知られていた学名「a」は、種「B」に使用され、なじみのある種「A」には、別の有効名を探すか、新たな種として記載する必要がある。

引用元: Wikipedia

学名は厳密には種類に対してではなく、論文で指定された模式標本に付けられた名前です。従って後から指定された模式標本が別種のものだとわかった場合には、それまで使われていた名前もその別種を指すものに変わってしまうんですね。

学問的な厳密性を保証するためのシステムなんですが、ちょっとややこしい面もありますね。

ヘビクビガメの命名騒動

学名の付け方を知ったところで、次は具体的にヘビクビガメの命名に際してどんなミスがあったのかを紹介していきます。

間違い①:種類分けミス

まず一つ目は、チリメンナガクビガメ(Macrochelodina rugosa)とジーベンロックナガクビガメ(Macrochelodina siebenrocki)についてです。

これらの亀は長らく別種と考えられてきましたが、近年の遺伝子解析で差異がないということが分かってきました。すなわちこの2種類の亀は実は1つの種類だったと分かったのです。

この事実に基づき先取権の原則から、M. siebenrockiという学名はM. rugosaのシノニムということになりました。和名のジーベンロックナガクビガメも学名に基づいた名前であるため、あまり使用しない方が分かりやすくて良いのではないかと思います。

間違い②:模式標本の間違い

二つ目の間違いは、コウホソナガクビガメの模式標本が実はチリメンナガクビガメ(M. rugosa)のものだったことです。コウホソナガクビガメの学名はChelodina oblongaでしたが、こちらのほうがチリメンナガクビガメの学名よりも先行するため、チリメンナガクビガメの学名がM. oblongaへと変わり、M. rugosaという学名はシノニムになります。最初のM.やC.は属名を表すのですが、チリメンナガクビガメとコウホソナガクビガメでは属が違うためC. oblongaという名前がM. oblongaと変化しています。

一方、もともとC. oblongaという学名だったコウホソナガクビガメの方は、それまでシノニムとされてきたChelodina collieiという名前へと変更になりました。

学名の変更結果まとめ

自分で書いていても思いますが、ヘビクビガメの学名変更は本当にややこしいですね。ちょっとでも分かりやすいように、結局どんな名前になったのかまとめておきます。

  • チリメンナガクビガメとジーベンロックナガクビガメは同種
  • チリメンナガクビガメの学名はM. rugosaからM. oblongaへ変化
  • コウホソナガクビガメの学名はC. oblongaからC. collieiへ変化

曲頸類の話題になると学名を使う人も多いですが、とりあえずこれだけ抑えておけばちょっとは知ったような顔もできるかもしれませんね(笑)

学名変更が与えた影響

ジーベンロックナガクビガメ(ジーベン)は安価で流通量も安定していたメジャーで手に入りやすい亀でした。一方でチリメンナガクビガメ(ルゴッサ)の方は、流通量が少なく非常にレアな亀とされていて、ジーベンよりもかなり高い値段で販売されていました。

これはルゴッサが動物の輸出制限の厳しいオーストラリアに生息する個体群だったためですが、学名変更騒動の際にこれらの2種が同一種だとされて以降は、それまで高かったルゴッサの人気もかなり落ち着いたようです。亀をレアだからという理由だけで飼っていると、こういった分類の見直しで思わぬダメージを受けてしまうかもしれないですね。注意したいところです。

コウホソナガクビガメも元々はオブロンガという学名で親しまれていた高価な亀だったのですが、名前が変わってしまいました。もともと曲頸類では「ルゴッサ」「オブロンガ」「エキスパンサ」と呼ばれていた3種の亀の人気が高かったのですが、学名変更のせいで非常にややこしくなってしまいました。もしこれらの亀を購入しようと考えている方は、和名でいうとどの種類なのかしっかり確認しないと、思っていたのと違う亀を購入してしまったなんてことになりかねないので注意して下さいね。

今回紹介したジーベンやルゴッサなどの学名騒動は別に新しい話題ではないのですが、自分で調べていても非常にややこしかったので記事にして紹介してみました。もしも間違っている所があれば指摘して下さい。ただしオーストラリアのヘビクビガメは未だに分類がハッキリとしていない部分もあるようなので、今後また分類が再編成されることもありえます。曲頸ファンならこの辺りの問題も注視しておかないといけませんね!

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著者:K-ki
K8ki・けーきはK-kiのシノニム。
AquaTurtlium(アクアタートリウム)を運営しています。

生き物とガジェットが好きなデジタル式自然派人間。でも専門は航空宇宙工学だったりします。
好きなことはとことん追求するタイプ。

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