アクアリウムを趣味にしている人なら誰しもカルキ抜きという作業には馴染みがありますよね。水道水は塩素消毒されているのでそのままでは生き物を育てることができず、何らかの方法で塩素を中和してやらないといけません。その作業がカルキ抜きですね。
アクアリウムではカルキ抜きをする方法は何通りかありますが、やはり塩素中和剤(カルキ抜き剤)を使用するのが最もポピュラーな方法です。しかしひとくちに塩素中和剤と言っても、アクアリウム用のものだけでも多くの種類があります。
今回はそんな数多くの塩素中和剤の中から最もスタンダードなハイポを使用してカルキ抜きを行う方法について紹介します。
ハイポとは
まずはハイポの概要や成分などから簡単に紹介していきます。
概要・成分
カルキ抜きでいうところのハイポとは、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)のことを指します。これはチオ硫酸ナトリウムに対して次亜硫酸ナトリウム(sodium hyposulfite)という誤称が国際的に定着してしまっていて、sodium hyposulfiteを略してハイポと呼んでいることによります。次亜硫酸ナトリウムはチオ硫酸ナトリウムとは全く別の物質で、要するに間違った名前の略称が浸透してしまっているわけです。
このチオ硫酸ナトリウム(=ハイポ)は水道水の塩素中和剤としてだけでなく、写真の定着剤や青酸カリなどシアン化物中毒の解毒剤としても利用されているようで、意外に役に立つものみたいです。また日本では認められていませんが国によっては食品添加物としているところもあるようです。
塩素中和の化学反応
チオ硫酸ナトリウムには水中のハロゲン単体を取り除く効果があり、その性質が塩素中和剤として利用されています。
化学反応式は
Na2S2O3・5H2O + 4HClO → 2NaCl + 2H2SO4 + 2HCl + 4H2O
と表されます。
ハイポは厳密にはチオ硫酸ナトリウム・5水和物(Na2S2O3・5H2O)で、pH4以上の水には塩素(Cl2)は存在せず主に次亜塩素酸(HClO)の形になっているなどの理由でこのような式になります。
反応式を見ると分かるようにこの反応では硫酸(H2SO4)が発生しています。硫酸は強酸なのでもちろん生体にとって良くはありませんが、水道水中の残留塩素はごく僅かなのでpHに影響をあたえるほどの量は生成されないようです。
塩素を中和する目的
アクアリウムで塩素を中和するのは、魚などの生体が塩素による中毒を起こすのを防ぐためとされていますが、塩素中毒そのものよりも水棲生物の排泄物と塩素が反応してできる有毒物質(クロラミンなど)が生成されるのを防ぐことの効果が大きいという意見もあります。
また、水槽内で飼育している生体に対する影響だけでなく、生物濾過により水槽内の水質を保つ硝化バクテリアに対して塩素がダメージを与えてしまい、水質が不安定になりうることもカルキ抜きを行う理由の一つとされています。
ハイポの使い方
ハイポがどんなものかが分かったところで、その使い方を解説します。
適切な使用量・使用法
商品の説明によると…
私が持っているハイポ(上のリンクにあるコンビという会社の製品です)の使用法には、水40リットルに対しおよそ1gを投入し、よく混ぜて完全に溶かして使用するようにと書いてあります。また、季節により水道水に含まれるカルキの量が異なるので、水質をよく調べた上で使用量を調節して下さいともあります。
この製品はチオ硫酸ナトリウム含有量が99.0%以上となっているので、他社製品でもチオ硫酸ナトリウムの純度が同程度であれば使用量は同じで良いはずです。季節により使用量を調節するようにともありますが、調整のためには残留塩素を測定する試薬などが必要となりますし、作業が増えるのは煩雑であまり好ましくないですね。
まあこの手の表記は何かあった時の言い訳用に書いてあるようなものなので、無視して年中1g/40Lの濃度で使用しても問題ないでしょう。実際私はもっと適当な使用量ですが問題が起こったことはありませんし、とてつもなく的はずれな量を使用しない限り問題が起こったという話も聞いたことがありません。
じゃあそれって何粒よ!?
40リットルに対しておよそ1gと言われても、ハイポはバラバラの大きさの粒になっている商品がほとんどなので実際使うときにはどれくらいの量を使えばいいのか分かりづらいです。目安としては、私が持っているハイポで10粒で1~2g程度と言われていますから、一粒当たり0.1~0.2gです。水40リットルに対し1gなので、10リットルバケツに溶かすとすれば0.25グラム、1~2粒程度溶かせば良いということになります。
昔からハイポはバケツ1杯に一つと言われていたようで、まあそれと大きな差はない量ですね。メーカー側が保険のために多めの使用量を指示していると考えれば、10リットルあたり2粒だったとしても妥当な量です。
ベテランアクアリストの使用量はもっと少ない
ですがこの使用量は多すぎる!という指摘もあります。熱帯魚飼育のベテランの方の意見なんかでは、水100リットルに一粒で十分という意見もあります。こういった方々は恐らく経験に基づいた使用量を主張しているので、安全のため多めに指示しているであろうメーカー推奨の使用量よりも必要最低限の量に近いと予想できます。
以下のリンクなんかでもメーカー推奨の使用量よりも少ない容量で十分だとしています。
ちょっと化学的に考えてみる
これだとメーカー推奨使用量とベテランアクアリストの使用量がぜんぜん違うやんけ!どうしろっていうんや!となってしまうので、ちょっと化学的に考えてみます。化学反応式が分かっているので理論上では水道水の残留塩素濃度が分かれば必要なハイポの量は計算で求められます。そういった観点からハイポの使用量を計算しているサイトがあったので引用します。
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化学反応式と分子量から必要なハイポの量を考えた場合、
Na2S2O3・5H2O + 4HClO + H2O → 2NaCl + 2H2SO4 + 2HCl + 5H2O
Na2S2O3・5H2Oの分子量:23×2+32×2+16×3+5×(1×2+16)=248
4HClOの分子量:4×(1+35.5+16)=210である事から以下の結果が出来ます。
- 水道水のHClOが0.1mg/lの場合、必要なハイポ(Na2S2O3・5H2O)は0.118mg/l
- 水道水のHClOが0.2mg/lの場合、必要なハイポ(Na2S2O3・5H2O)は0.236mg/l
- 水道水のHClOが1.0mg/lの場合、必要なハイポ(Na2S2O3・5H2O)は1.18mg/l
これを判り易く言い換えると、ハイポ1粒(0.2g)で以下の様な結果が出てきます。
- 遊離残留塩素が 0.1mg/lの場合、約1700Lの水道水を脱塩素する。
- 遊離残留塩素が 0.2mg/lの場合、約 850Lの水道水を脱塩素する。
- 遊離残留塩素が 1.0mg/lの場合、約 170Lの水道水を脱塩素する。
説明書には、ハイポ1粒を水道水10Lに散布するとの記載がありますが、上記の結果は説明書とは大きく異なるものとなります。
- 引用元:らんちゅう専門 伊東養魚場(サイト移転:らんちゅう専門 伊東養魚場)
このサイトによると、計算の結果ハイポ1粒を0.2gとすれば約1700リットルの水道水を塩素中和できるとのことです。ハイポ、ハンパないっす!
ただし上のページの著者はいろいろな要素を加味して安全策を取り、結局100リットルあたり5粒のハイポを使用しているということに注意して下さい。
使いやすい量を使えばいいのでは?
ということで、ハイポの使用量はメーカー推奨の量よりもかなり少なめで良いと言えそうです。ですがまあ実際にハイポを水に溶かす時には100リットルとか1000リットルとかの容器を用意できるような人はほとんどいないでしょうし、必要最低限の使用量に近づけるためにハイポの粒をイチイチ細かく砕くのも面倒ですから、使い勝手を考えるとバケツ1杯に1粒といった使用量で問題はないと思います。
もちろん20リットルのポリタンクで水換えをするという方でもポリタンク1杯に1粒で大丈夫ですし、サイズにばらつきのあるハイポの中で小さめの粒であってもバケツ1杯のカルキ抜き程度になら十分な能力があるといえます。
ざっくりと水換え用の容器1杯に1粒使えばOKくらいの認識を持っておけばまあ問題は起きないでしょう。
使用量が多すぎた場合の問題点
ハイポの入れ過ぎは害を及ぼす
ここまでは普通に使う分にはハイポの使用量が少なくて困ることはないという話でしたが、逆にハイポを入れすぎるとどうなるのでしょうか?実はハイポを入れすぎると生体に害を及ぼすことが知られています。
どのくらいの量を入れると生体にどんな害が出るのか具体的な数値などは調べられていませんが、ハイポが多すぎると生体はチオ硫酸ナトリウム中毒などを起こし最悪の場合死んでしまいます。これについて参考になりそうなリンクを見つけたので紹介します。
上リンクの千葉県水道局のページによれば、必要量の50倍程のハイポを入れたところ飼育していた魚が死んでしまったという被害が出てしまったようです。50倍というと相当な量ですが、よく分かっていない人が注意書きなどを読まずに使ってしまったんでしょうか。
とにかくハイポの入れ過ぎには害があり、生体を死なせてしまうこともあります。普通に使う分には問題は起きないと思いますが、多ければいいというものではないので注意するようにしましょう。
とは言ってもハイポの毒性は塩素と比べると微々たるものですし、むしろ入れ過ぎないように気にしすぎて足りなかった場合の被害の方を恐れるべきでしょう。塩素とハイポが化学反応的にピッタリ打ち消し合うような量を狙わなくても、少しハイポが余るくらいの量を使用しておけば生体に問題が起こることはないはずです。
チオ硫酸ナトリウムは水とは反応しない
また、上の方に書いた塩素中和の化学反応式を見て、硫酸が発生するのでハイポの入れ過ぎはマズイ!と思ってしまう方もいるようですが、そんなことはありません。上の化学反応式はあくまでチオ硫酸ナトリウム・水・塩素が存在する場合の反応であり、ハイポと水だけでは反応は起きないそうです。ハイポを入れれば入れるほど塩素と反応する、というほどの残留塩素は日本の水道水にはないので、硫酸が大量発生するというような心配は必要ありません。
便利な使い方
ここまではハイポを水換え時のバケツに溶かす前提で話を進めてきましたが、もっと便利な使い方があります。あらかじめハイポを精製水に溶かしておき、水換えの時にはその液体タイプのカルキ抜きを使う方法です!
これなら溶かすハイポの分量も調整しやすいですし、いちいちバケツに固体のハイポを溶かす必要もありません。ポイントは精製水を使うことで、それによりハイポを溶かした液体が傷んで駄目になる可能性が低くなります。
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案外いろんな効果アリ!?各種カルキ抜き剤の特徴&自作方法
アクアリウム水槽での熱帯魚や金魚飼育に欠かせないカルキ抜きを解説します。水道水に含まれ生体に害のある塩素の中和がカルキ抜きの目的ですが、商品によってはエラの保護などの付加効果があります。また、格安の自作方法も紹介します。
上のリンクではハイポを溶かして作る自家製のカルキ抜き剤の作り方を紹介しています。分量は精製水500mlに対してハイポ2.5gを溶かし、そのハイポ溶液を水道水10リットルあたり2ml加えるとしています。これは100リットルあたりハイポ0.1gを溶かすのに相当します。
私はこれを使っていて何の問題もありませんが、説明書の分量にしたいという場合は自分で計算してもっと濃い濃度の溶液を作って下さい。また上のリンクでは市販のカルキ抜き剤のカルキ抜き以外の効果(魚の粘膜保護)についても紹介しているので、ぜひ見てみてくださいね。
また、このカルキ抜き剤自作方法は、YouTubeで動画の形でも配信しています。動画だと手元の作業がより見やすいので、ぜひこちらも見てみてくださいね!ついでにチャンネル登録もしてくれると嬉しいです!
ハイポの使い方まとめ
今回はカルキ抜きの定番「ハイポ」を紹介しました。日頃何の気なしにしている作業でも、真剣に考えてみると色々なことがわかってきますね。特にハイポの使用量について詳しく解説しましたが、そこまで神経質になる必要はなくここで紹介されている分量と比べてあまりにも多かったり少なかったりしなければ問題は起こらないと思います!