アクアリウムで飼育される熱帯魚にはいろいろな種類がいますが、その中でも一番最初に思いつくのは、小型で水槽の中を群れて泳ぐカラシン(テトラ)の仲間ではないでしょうか。今回紹介するペンシルフィッシュは、このカラシンの仲間の中でもかなり古くからアクアリウムで親しまれてきた熱帯魚です。
ペンシルフィッシュという名のとおり、細長い体つきをしていて、カラシンらしい群泳も楽しむことが出来ます。ネオンテトラ・カージナルテトラなどと比べるとやや地味ですが、種類によっては独特の色や柄を持っているため、観賞性では決して負けていません。ペンシルフィッシュと言っても多くの種類が存在するため、このページではペンシルフィッシュの仲間全体に共通する飼育・繁殖の方法に加えて、人気のある種類の紹介もしておきましょう。
ペンシルフィッシュとは
和名・流通名 | ペンシルフィッシュ |
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学名 | Nannostomus sp. |
英名 | Pencil fish |
分類 | カラシン目レビアシナ科ナノストムス属 |
原産地 | 南米 |
飼い易さ | ★★★★☆ |
値段(1匹) | 200円程度~(種類による) |
最大体長 | 3~6cm程度 |
寿命 | 2~3年程度 |
遊泳層 | 中層 |
生息環境 | 流れのない濁った流域や水草の多い場所で群れて生活する。 |
適合する水質 | 水温:22~28℃ pH:5.0~7.0 |
特徴 | 細長い体型が特徴的。比較的群れやすく、赤みの強い種類は水草水槽のメインフィッシュとして十分通用する。 |
ペンシルフィッシュは、南米を原産とするカラシン目レビアシナ科ナノストムス属の淡水魚の総称です。やや分類が錯綜している部分もありますが、2013年の時点で少なくとも20種の熱帯魚がこのナノストムス属に分類されているため、ペンシルフィッシュも20種存在するというのが適当でしょう。
ペンシルフィッシュの仲間が初めて発見されたのは1872年のことです。その後、1930年代には、既にアクアリウム用の熱帯魚として広く知られていました。アクアリウムには欠かせない、歴史のある熱帯魚と言えますね。
形態
ペンシルという名前のとおり、鉛筆のような細長い体型が特徴的です。体長は4cmほどにとどまる小型の種類が多く、平均的な寿命は2年から3年ほどです。
分類
ペンシルフィッシュの分類は複雑に変化してきました。
1872年にペンシルフィッシュの仲間として初めて「ナノストムス・ベックホルディ」が発見され、同時にナノストムス属(Nannostomus)が形成されました。その後、多くの近縁種が発見され、ペンシルフィッシュの仲間は増えていきます。それに伴い20世紀の前半頃には、分類がより細分化され、ポエキロブリコン属(Poecilobrycon)とナノブリコン属(Nannobrycon)という2つの属が追加されましたが、ペンシルフィッシュの分類については様々な意見が存在している状態でした。
そして1975年、1世紀近くにも渡る議論の末、ペンシルフィッシュの全てをナノストムス属に分類し直し、ポエキロブリコン属とナノブリコン属は廃止するという結論に至りました。この再分類は、現在多くの人に支持されています。
アクアリウム向けに流通しているペンシルフィッシュは、このあたりが整理されていないのか、あるいは馴染みのある昔の名前を使っているからなのか、未だに「ナノブリコン属」として販売されている場合もあります。だからといって大した問題はありませんが、ペンシルフィッシュは現在全て同属に分類されている、ということは知っておいても損はしないでしょう。
また、まだ分類が確定していないペンシルフィッシュの仲間も数種類いると言われているため、今後もペンシルフィッシュの分類に多少の変化が起こる可能性はありそうです。
オス・メスの見分け方
ペンシルフィッシュは種類が多岐に渡り、それぞれ模様や色が異なるので、見た目による一様なオス・メスの判別方法はありませんが、ナノストムス ベックホルディやアークレッドペンシルのように、オスのほうが模様や色がはっきりと出る種類が多いです。また、産卵間際になるとメスの腹が大きく膨らむので、オス・メスの区別は比較的容易になります。
生態
ペンシルフィッシュは温和で大人しい種類が多いため、初心者でも飼いやすい熱帯魚です。臆病な一面もあるため、ある程度の数で飼育すると調子良く保つことができます。
また、ペンシルフィッシュにコケ(藻類)を食べてくれるコケ取り生体としての活躍を期待する人も多いですが、実際のところコケ取り能力は高くありません。少なくとも、オトシンクルス、サイアミーズフライングフォックス、ブラックモーリーなどと比べると、コケ取り能力は明らかに一段落ちます。
ペンシルフィッシュの種類
ペンシルフィッシュは種類によって色、体長などの特徴が大きく異なります。また、泳ぎ方にも違いがあり、以前からナノストムス属に分類されていた種類が水平に泳ぐのに対して、ナノブリコン属に分類されていた2種は、頭をやや上に傾けるようにして斜めに泳ぎます。
ペンシルフィッシュには、2013年時点で分類が明確になっているものだけで、以下の20種が存在します。
- ナノストムス アンドゥゼイ(Nannostomus anduzei)
- ナノストムス ベックホルディ(Nannostomus beckfordi)
- Nannostomus bifasciatus
- Nannostomus britskii
- Nannostomus digrammus
- ナノストムス エクエス(Nannostomus eques)
- Nannostomus erythrurus
- ナノストムス エスペイ(Nannostomus espei)
- Nannostomus grandis
- ハリソニー ペンシル(Nannostomus harrisoni)
- Nannostomus limatus
- マジナータス ペンシルフィッシュ(Nannostomus marginatus)
- Nannostomus marilynae
- Nannostomus minimus
- アークレッドペンシル(Nannostomus mortenthaleri)
- Nannostomus nigrotaeniatus
- Nannostomus nitidus
- ブラッドレッドペンシル(Nannostomus rubrocaudatus)
- スリーライン ペンシル(Nannostomus trifasciatus)
- ワンライン ペンシル(Nannostomus unifasciatus)
以下では、上記20種の中でもアクアショップでよく見られるペンシルフィッシュの仲間を中心に、種類別の解説をしています。
ナノストムス アンドゥゼイ(Nannostomus anduzei)
原産地 | ベネズエラ、ブラジル |
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値段(1匹) | 500円程度~ |
最大体長 | 2cm程度 |
適合する水質 | 水温:22~28℃ pH:5.0~7.0 |
ナノストムス アンドゥゼイはペンシルフィッシュの中で最小の種類で、体長は最大で2cmほどです。体色はシルバーで、オスは尻びれと尾びれの付け根付近が赤く染まります。
ナノストムス ベックホルディ(Nannostomus beckfordi)
原産地 | ガイアナ、スリナム、フランス領ギアナ、ブラジル |
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値段(1匹) | 200円程度~ |
最大体長 | 4cm程度 |
適合する水質 | 水温:21~27℃ pH:5.0~8.0 |
ナノストムス ベックホルディはナノストムス属の模式種で、アクアショップでもよく見られます。幼魚期やメスは、銀白色の腹に褐色がかった背中、口先から尾びれの付け根にかけて体の中央に黒い線が入っており、尻びれと尾ビレの付け根が赤く染まっています。オスの成魚は色がよりはっきりとしており、さらに体の中央の黒い線の上下が赤く色づきます。別名ゴールデンペンシルフィッシュとも呼ばれ、体長は4cmほどです。
同種の中でも、生息している地域によって色合いに違いがあります。また、同じ個体でも、一日の中で色合いに変化が起こり、非常にカラーバリエーションの豊富な熱帯魚と言えます。
ナノストムス エクエス(Nannostomus eques)
原産地 | ブラジル、ペルー、コロンビア、ガイアナ |
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値段(1匹) | 300円程度~ |
最大体長 | 5cm程度 |
適合する水質 | 水温:22~28℃ pH:4.5~7.5 |
ナノストムス エクエスは全長5cmほどで、ペンシルフィッシュの中では比較的大きい種類です。全体的に黒っぽく、ブラックペンシルやブラウンテールドペンシルフィッシュと呼ばれることもあります。
以前はナノブリコン属に分類されており、後で紹介するワンライン ペンシルとともに、頭をやや上に傾けてながら泳ぐ特徴があります。また、コケ取り能力があまり高くないペンシルフィッシュの中でも特にコケを食べないと言われます。
ナノストムス エスペイ(Nannostomus espei)
原産地 | ガイアナ |
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値段(1匹) | 2000円程度~ |
最大体長 | 3cm程度 |
適合する水質 | 水温:22~28℃ pH:4.0~6.5 |
ナノストムス エスペイはゴールド色のボディにうっすらと灰色のラインが2本入り、体の中央にはっきりとした黒い5つのスポット模様があるのが特徴です。ラインを基調とする他のペンシルフィッシュとは大きく模様が異なります。最大体長は4cm程度です。
本種はガイアナにあるマザルーニー川とその支流の限られた地域にのみ生息すると考えられており、流通量も少ないです。そのため、ペンシルフィッシュの中では販売価格はかなり高めの種類です。
ハリソニー ペンシル(Nannostomus harrisoni)
原産地 | ガイアナ |
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値段(1匹) | 2000円程度~ |
最大体長 | 7cm程度 |
適合する水質 | 水温:22~28℃ pH:5.0~7.0 |
ハリソニー ペンシルは最大体長が7cmと大型のペンシルフィッシュです。模様はナノストムス ベックホルディによく似ており、大型ではあるものの温和で大人しい種類です。ペンシルフィッシュ(ナノストムス属)の中では、Nannostomus grandisに次いで大きくなります。
マジナータス ペンシルフィッシュ(Nannostomus marginatus)
原産地 | ブラジル、ガイアナ、コロンビア、スリナム、ペルー |
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値段(1匹) | 500円程度~ |
最大体長 | 3cm程度 |
適合する水質 | 水温:22~28℃ pH:4.0~7.0 |
マジナータス ペンシルフィッシュは別名ドワーフペンシルとも呼ばれ、体長は2~2.5cmほどと小柄で、体には三本の黒いラインが入り、体の中央に短く赤いラインが入ります。かつてはナノストムス マジナータス ピクトラータス(Nannostomus marginatus picturatus)という亜種がいると考えられていたこともありましたが、現在ではN. m. picturatusはN. marginatusのシノニムであり同種と考えられています。
ブラッドレッドペンシル(Nannostomus rubrocaudatus)
原産地 | ブラジル、ペルー |
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値段(1匹) | 2000円程度~ |
最大体長 | 3cm程度 |
適合する水質 | 水温:24~28℃ pH:4.0~7.0 |
ブラッドレッドペンシル(別名ナノストムス パープル)は次に紹介するアークレッドペンシルによく似ていますが、背部が赤く染まらず、赤色が少し紫がかっているという特徴を持っています。また、オスの気性もアークレッドペンシルほど荒くならないため飼いやすいです。体長は3cmほどです。
アークレッドペンシル(Nannostomus mortenthaleri)
原産地 | ペルー |
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値段(1匹) | 1800円程度~ |
最大体長 | 4cm程度 |
適合する水質 | 水温:24~28℃ pH:4.0~7.0 |
アークレッドペンシルは、口先から尾びれの付け根にかけて三本の黒い線が背中側、腹側、体の中央に入ります。体の中央がにじむように赤く染まっており、オスは体全体が鮮やかな赤色となります。オスは気性が荒く、同種間では激しく争うことが多いため、ペンシルフィッシュの中では混泳に注意が必要とされる種類です。体長は3cmから4cmほどです。
スリーライン ペンシル(Nannostomus trifasciatus)
原産地 | ブラジル、ペルー、ガイアナ、コロンビア、ボリビア |
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値段(1匹) | 400円程度~ |
最大体長 | 5cm程度 |
適合する水質 | 水温:22~28℃ pH:4.0~7.5 |
スリーラインペンシルは、ペルーやブラジルを始めアマゾン側中流域、ネグロ川、オリノコ川周辺に広く分布しています。トリファペンシルの別名で呼ばれることもあります。
薄く光沢を帯びた褐色の体に、3本の黒いライン模様が入るのが特徴です。また、各ヒレの付け根には赤色の斑紋が入ります。ペンシルフィッシュの仲間の中でも非常に美しい種類として知られています。
ワンライン ペンシル(Nannostomus unifasciatus)
原産地 | ブラジル、ベネズエラ、コロンビア、ボリビア、ガイアナ |
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値段(1匹) | 400円程度~ |
最大体長 | 5cm程度 |
適合する水質 | 水温:23~28℃ pH:4.0~7.0 |
ワンライン ペンシルは、ナノストムス エクエスと同じく、以前はナノブリコン属に分類されていました。ワンライン ペンシルは色合いや模様がハリソニー・ペンシルによく似ていますが、エクエスと同じ頭を斜め上に持ち上げた独特の泳ぎ方で見分けることができます。全長は5cmほどです。
ペンシルフィッシュの分布・生息地・生息環境
ペンシルフィッシュはギアナ、ペルー、ブラジル、コロンビア、ベネズエラといったアマゾン川、ネグロ川、オリノコ川流域などの南米地域に幅広く分布しており、流れのない濁った流域や水草の多い流域で群れを成して生活しており、プランクトンなどを主食としています。
ただし、一口にペンシルフィッシュと言っても20種類もいるため、個々の種の性格な分布域についてはまだ分かっていない部分も多いです。生息地として報告されている場所が飛び飛びになっているなど、不自然な分布状況になっている種類も多く、局所的な分布とされている種でも、まだ確認されていないだけでもっと広範囲に生息している可能性はあります。
ペンシルフィッシュの飼育方法
ペンシルフィッシュは大人しく温和で水質にも幅広く適応するため、混泳に向いており、多くの熱帯魚のタンクメイトになることができます。
基本的な飼い方
ペンシルフィッシュは大人しく臆病な性格をしており、びっくりすると水槽から飛び出してしまうこともあります。そのため、水槽には必ずふたをしておきましょう。また、水槽内に複数を導入して群れを作らせたり、水草を配置し隠れ家となる場所を作ってあげたりすることで、水槽内でも落ち着いて行動するようになります。
水質
水温は22~28℃程度が好ましく、pHは5.0~7.0程度の弱酸性、硬度は低く保たれた軟水が適切です。比較的幅広い水質への適応が可能で、高温にも耐える種類が多いです。
エサ
ペンシルフィッシュは人工飼料、冷凍飼料、活き餌など何でも食べます。どの種類も口が小さいため、細かい顆粒の餌か、もしくはすりつぶして小さくしたエサを与えましょう。
混泳
ペンシルフィッシュは大人しい種類が多いため、少なくともペンシルフィッシュが原因で混泳にトラブルが起こることはほとんどないでしょう。ただし、比較的動きがゆったりしており小型の熱帯魚であるため、大型魚や動きが俊敏な熱帯魚との混泳は避けたほうが無難です。
ペンシルフィッシュの見た目は種によってバリエーションに富んでおり、赤みの強いアークレッドペンシルや、ブラッドレッドペンシルなどは水草水槽のメインフィッシュにしても映えますし、他の種類も光沢が強かったり、独特の模様を持っていたりと、属全体として観賞性の高いグループであるといえます。赤みの強い種類以外は、色合いよりも模様で目を惹くタイプが多いので、カラシンなどのカラフルな種と混泳させることで、水槽の中がより華やかになるでしょう。
アクアリウム水槽での役割
以前は、ナノストムス属は細かいコケを食べてくれるものの、ナノブリコン属(ナノストムス エクエス、ワンラインペンシル)にはそのような性質がないと言われていました。また、ナノストムス属でも食べるのは生えはじめの細かいコケに限られるため、生えてしまったコケに対するコケ取りというよりは、コケ予防の役割を期待することが主でした。
現在では、生物学的な差異の小ささから、ナノストムス属とナノブリコン属は統合されているため、上記のような属による習性の違いが実際にあるのか、やや怪しいとおもっていますが、どちらにせよコケ取りを強く期待するような種類ではありません。ペンシルフィッシュを導入する際は、多少のコケ予防効果がある、という程度の認識にとどめ、過度な期待は持たずコケ取りではなくペンシルフィッシュ自体の観賞を楽しむのが賢明でしょう。
ペンシルフィッシュの繁殖方法
ペンシルフィッシュの繁殖は種類によって難易度が異なりますが、ナノストムス ベックホルディやナノストムス マージナタスは比較的繁殖が容易とされています。ペンシルフィッシュの仲間は、バラマキ型の産卵を行う熱帯魚であり、コイ科の小型魚などと同じ方法で繁殖させることが出来ます。
産卵・採卵の方法
繁殖期となり、オス・メスの区別がはっきりとしてきたら、ブラインシュリンプやミジンコなどの活き餌を与えて体力をつけさせ、同時に水槽内のpHを低く保ちましょう。水温は、適正範囲内で高めの温度をキープする方が魚の活性が上がり繁殖しやすくなります。
産卵用の小型水槽に、1~2ペアを隔離して産卵させます。この時、水槽の底には、ウィローモスを高い密度で敷き詰めるとか、高床式にした鉢底ネットを敷いておくなど、産卵後の食卵を防ぐ工夫をしておきましょう。
産卵用の隔離水槽は、薄明かりのある場所に一晩置いておきます。翌朝、産卵が確認できたら親魚を元の飼育水槽に戻し、卵と隔離しましょう。
稚魚の育て方
産卵から2~3日ほどで稚魚が生まれます。稚魚は小さくて食べられる餌の種類が限られますが、体力もないため、インフゾリアのような非常に小さい餌を十分に与えましょう。その後は、ブラインシュリンプなどを与えつつ、人工飼料へ移行していきましょう。
ペンシルフィッシュの魅力・おすすめポイント
ペンシルフィッシュと一口に言ってもその種類は多岐に渡り、種類によってはまだまだ解明されていないこともある、奥の深い熱帯魚です。細長い体型が特徴的であり、同じ方向を向いて群泳する姿は見ごたえがあります。初心者でも飼いやすく、おすすめです。