私たちの身近で懸命に生きる爬虫類のアイドル「カナヘビ」
「カナヘビ?それって蛇ですか?」
知人とカナヘビに関する会話をすると、ほぼ確実に言われるフレーズです。
見た目は完全にトカゲそのものですが、全長の3分の2ほどを長い尻尾が占め、シャープな体つきが特徴的なカナヘビ。その名の由来は、かわいらしい蛇という意味から「愛蛇(かなへび)」と呼ばれ読み名が各地に広まった、という説が濃厚です。地域によっては「かなちょろ」や「かねちょろ」、「かなぎっちょ」など、かなりユニークな呼ばれ方をされていたりもします。
著者独自のリサーチによると、「かなちょろ」は福島県や北海道の一部の地域におけるカナヘビの方言です
日本に住むカナヘビの多くは絶滅危惧種に指定
日本固有種のカナヘビは全部で6種類。最も広い地域に生息する「ニホンカナヘビ」は、私たちの身近に住むカナヘビの代名詞といえるでしょう。筆者が住む埼玉県南部では、晴れた日に散歩していると、1度は日向ぼっこしているカナヘビを見かけます。しかし、東京都では、ニホンカナヘビは絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されるほど、その数を減らしています。
意外に難しいカナヘビの飼育方法
カナヘビは可愛らしく、ペットとしても魅力的な生き物。近所の草むらや雑木林で手軽に捕まえられ、広い飼育スペースはいらず、鳴いたりすることもありません。そのため、どうしても飼育のハードルが低いと感じてしまいがちです。しかし、カナヘビの飼育って、けっこう難しいんですよ。
- こどもが学校帰りにカナヘビを捕まえてきた。よくみたら可愛らしく、親がカナヘビにハマってしまった。
- 100円ショップの道具だけで、安く手軽に飼育環境を整えてみよう。
上記のような安易な思考でカナヘビを飼い始めてしまうと、次第に衰弱して、やがては死なせてしまいます。結論、カナヘビ飼育は難しく、お金もかかります。生半可な覚悟でカナヘビを飼うのはやめましょう。
…と一刀両断してしまうのは簡単ですが、カナヘビ愛好家である筆者としては、少しでも多くの方とカナヘビ愛を語りたいと思っています。
そこで、どうしてもカナヘビが飼いたい方に向けて、長期飼育の勘所をまとめます。ポイントは、給餌(エサやり)と日光浴(バスキング)の2点です。
給餌のポイント・カナヘビが好むエサを把握しバランスよく
昆虫エサは種類や大きさに注意
カナヘビは、生きた昆虫やクモなどの、やわらかい節足動物を好んで食べます。しかし、自分より大きい生き物や、甲殻が固い昆虫を食べることはほとんどありません。好みではない大きな昆虫を飼育ケースに入れてしまうと、昆虫に怯えてしまい、ストレスから拒食に陥ることも…。
特に初給餌の際には、エサとして入れた昆虫にカナヘビが怯えていないか、入念に観察しましょう。
カナヘビが好んで食べる生き物(野生採集)
カナヘビの好物(採集)
- コオロギ
- バッタ
- 羽虫
- 青虫
- クモ など
身近に生息しており採集がしやすい生き物の中では、カナヘビは上記のような柔らかいエサを好んで食べてくれます。ただし、カナヘビが無理なく丸呑みできる大きさのものを選別してください。大人のカナヘビであっても、成虫サイズのエンマコオロギやショウリョウバッタなどは決して与えないでください。大きすぎて捕食できなかったり、後ろ足のキックによりケガをしてしまうリスクがあります。
エサの安定供給が難しい場合はホームセンターやネットショップで
10月下旬にもなると、カナヘビが好むサイズの昆虫が採れなくなってきますね。そこで活躍するのが、ホームセンターやネットショップで販売されている、肉食爬虫類向けの生きエサです。
カナヘビが好んで食べてくれる生きエサは、下記の種類です。
カナヘビの好物(市販)
- ヨーロッパイエコオロギ
- フタホシコオロギ
- レッドローチ
- デュビア
いずれの生きエサも栄養バランスが優れており、手に入りやすいためオススメです。ただし、昆虫はカルシウムの含有量が少なく、エサが昆虫のみに偏ると飼育下でカナヘビがなりやすい疾患「クル病」を発症させる原因になります。別売りのカルシウムサプリメントを生きエサに添加してあげましょう。
また、いくらカナヘビが好んで食べるからとはいえ、固定のエサのみを与え続けることはオススメできません。できるだけエサはローテーションしながらバランスよく与えましょう。
「昆虫はどうしても苦手…。ペットショップに売っている”ミルワーム”なら、動きも遅いし飛び跳ねないからなんとかなりそう。」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、カナヘビにミルワームは与えないようにしましょう。
確かに食いつきは抜群。美味しそうにミルワームをアグアグするカナヘビを見て、病みつきになってしまう気持ちには共感します。問題は、ミルワームの栄養バランスです。ミルワームはカルシウム含有量が少ないだけではなく、カルシウムの吸収を妨げる「リン」を多く含んでいます。上述した「クル病」で悩む飼育者の多くは、カナヘビの主食を「ミルワーム」にしていた、という例も多く聞きます。
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人工エサになれると飼育がグッと楽になる
カナヘビが生きエサを安定的に食べてくれるようになってきたら、人工エサにもチャレンジしてみましょう。
2022年現在、爬虫類をペットとして飼うことが一般化してきました。カナヘビと同じ肉食系爬虫類であるヒョウモントカゲモドキ用の人工エサであれば、食べてくれるカナヘビも多いです。
生きエサと比較して、人工エサは管理面に優れています。「これまでカナヘビのために何とか昆虫エサを管理してきたけど、本音は…。」といった飼育者にとって、人工エサの存在は救世主そのものでしょう。
日光浴のポイント・飼育環境で太陽光を再現
昼行性爬虫類であるカナヘビを飼う際には、飼育環境内に”太陽光”を再現してあげる必要があります。庭で定期的に日光浴させることが好ましいのですが、日射病のリスクや、日中は不在にしている飼育者の都合等で難しいのが現実でしょう。そこで着目したいのは、「太陽光を再現できるライト」です。
ペットショップの爬虫類コーナーには、多くの爬虫類用ライトが陳列されています。爬虫類を飼育したことがない方にとっては、「なぜライトが必要なの?ライトが生体にとってどのような役割があるの?」と疑問に思ったことがあるかもしれません。
爬虫類ライトの効能は多岐にわたりますが、カナヘビに必要なライトは、「UV-Bを照射するライト」と「バスキングライト」の2種類です。
UV-Bライトとは紫外線を再現するライト
「UV」というは聞き馴染みがありますね。「UV-B」は、太陽光に含まれる紫外線の一種です。カナヘビはUV-Bを浴びることで、体内でビタミンD3という栄養素を合成し、カルシウムを吸収しています。いくらカルシウムを摂取しても、日光浴して「UV-B」を浴びることをしないと、カルシウムがうまく吸収できず、衰弱や病気の原因になってしまいます。
バスキングライトは太陽の温かさを再現するライト
次に必要なライトは、バスキングライトです。バスキングとは「日光浴」を意味し、ライトから熱を照射し、生体や対象物(石など)を温める効果があります。私たち哺乳類とは異なり、変温動物である爬虫類は、自らで体を温められません。日光浴することで新陳代謝を向上させ、食べたエサの消化や排泄を促進しています。
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まとめ 適切な給餌とライトの設置でカナヘビと長い時間を共にしよう
本記事では、はじめてカナヘビを飼育する方向けに、給餌(エサやり)と日光浴の重要性を解説しました。こどもたちの身近なアイドル「カナヘビ」、しかし私たち人間の影響で生息できる場所が減り、その数を減らしつつあります。警戒心が強く人には慣れにくいカナヘビですが、ペットとしてお迎えする場合には知識が必要です。
適切な飼育環境を整え、様々なエサをバランスよく与え続けられれば、次第にあなたにとってかけがえのないパートナーになっていくことでしょう。