K-ki(K-ki@AquaTurtlium)は以前、水槽のコケ取り生体としてタニシを利用していたことがあります。アクアリウムの掃除役に利用される貝類としては、石巻貝やフネアマガイは良く知られていますが、タニシを利用している人はあまり多くありません。
今回は、K-kiの経験と知識に基づき「アクアリウム水槽のコケ取り生体として、タニシって役に立つの?」という疑問に対する答えを考えていこうと思います。
タニシとは
まずはごく簡単に、タニシとはどんな生き物なのかを紹介しておきましょう。
タニシは、主に石等に付着した藻類を食べて生活する淡水性の巻貝で、水中の植物プランクトンなども食べます。このため、植物プランクトンの大発生を防ぐなど水質浄化の効果があるとされています。夜行性の傾向が強く、昼間は砂の中に潜ったりしていることが多いです。
水温・水質への適応能力が高く丈夫な貝ですが、極端にpHが低い環境は貝殻が溶けてしまうためあまり向きません。酸素が不足したり、水質が悪化すると水面付近に上がり、アンモニアや亜硝酸塩が多くなると殻を閉じてしまうので水質悪化の指標にもなります。
日本には、タニシの仲間として以下の4種類が生息しています。
マルタニシ
マルタニシは殻高(殻部分の高さ)が約4.5~6cm程度の、比較的大きなタニシです。古くから山間部などでは貴重なタンパク源として食用にされており、味も良くて嗜好品的な要素もあったそうです。感想に強く、水の抜かれた水田でも、泥に潜って耐えることができます。
ヒメタニシ
ヒメタニシは殻高は約3.5cmの比較的小型なタニシで、沖縄を除く北海道から九州までの日本各地に生息します。池や沼などを始め、水田や用水路など、日本に生息する対西野中名の中では、生息環境が最も多様で、水質汚染にも強いとされています。
アクアリウムでタニシが飼育される場合、このヒメタニシであることが多いです。
オオタニシ
オオタニシは殻高約6.5cmの大型のタニシで、ヒメタニシのように水田にも生息しますが、どちらかと言えばより水質の安定した池沼や湧水のある場所などを好みます。大型のため昔から食用にされてきましたが、食用として北米に持ち込まれた個体が、天敵が少ないせいで定着し、侵略的な外来種として問題になっています。
ナガタニシ
ナガタニシは琵琶湖水系の固有種で、現在は琵琶湖のみに生息します。殻の形は細長く、殻高は約7cm程度まで成長する大型のタニシです。
完全淡水性で適応できる水質の幅が比較的広い
上でタニシについて簡単に説明したので、次はタニシの特徴を解説していきます。まずは、タニシの長所から紹介していきましょう。
まず一つの大きな特徴は、完全淡水性の貝であり適応できる水質の幅も比較的広いことです。アクアリウムのコケ取り生体として利用される石巻貝やフネアマガイは、本来は汽水域に生息する貝類です。従って、汽水のようにpHは弱アルカリ性の環境を好みますし、純淡水では長く生きられないとも言われます。
その点、タニシは皆さんご存知のように、田んぼなどの純淡水環境に生息する貝なので、当然ながら純淡水環境で寿命を全うすることが出来ます。また、もともと田んぼのような規模の小さく水質変動の激しい環境に生息している生き物なので、比較的幅広い環境に適応することが出来るのも、大きな長所です。
貝類の殻は、基本的に炭酸カルシウムで出来ているため、酸性の水質では殻が溶けてしまいます。従って、当然ながら二酸化炭素(CO2)を大量に添加する本格的な水草水槽には向きませんが、それは他の貝類も同様です。このような極端な例を除けば、幅広い環境で飼育できるタニシは利便性の高い貝と言えるでしょう。
水槽内で繁殖が可能
水槽内で繁殖できない生き物を飼育するのは、あまりおすすめできることではありません。なぜなら、結局のところ野生の生き物を採ってきて水槽の中に閉じ込めて死なせているだけだからです。これでは、その種類の生物の野生下での生存を脅かしていることに他なりません。
石巻貝やフネアマガイは、繁殖に汽水が必要なため余程のことがなければ繁殖させる人はいないでしょう。一方でタニシは、純淡水環境でも繁殖可能であり、水槽内でも比較的簡単に繁殖してくれます。アクアリウムという趣味を楽しみながら、自然下の生き物たちとも持続的に付き合っていくためには、飼育下での繁殖が容易なタニシのような生き物を選ぶべきといえます。
また、アクアショップで販売されている個体に関しても、業者の繁殖池などで簡単に殖えるタニシは養殖個体が中心ですが、繁殖に手のかかる石巻貝などは野生採取個体が中心です。流通している個体のことを考えても、やはり石巻貝よりはタニシのほうが野生生物への圧力は低いと言えます。
雌雄異体のため殖えすぎない
一方で、淡水水槽で殖えるカワコザラガイなどの貝類は、水槽の美観を損なわれるスネールとして嫌われています。ラムズホーンのように、見た目の可愛らしさからペット用として飼われるものもいますが、この手の貝類は繁殖力が旺盛で、殖えすぎて手がつけられなくなることも少なくありません。
これらの貝類の繁殖力が異常とも言えるほど強いのは、「雌雄同体」という特徴を持っていることが一つの原因です。これは、一個体がオスの役割もメスの役割も果たせるということです。つまり、2匹の貝がいれば、それぞれの貝が母親として卵を産めるため、単純計算で雄異体の生き物の倍の繁殖力があることになります。
しかしタニシは、雌雄同体ではなく雌雄異体です。つまり、オスはオス、メスはメスで別個体になっています。そのため、雌雄同体のスネールほどの爆発的な繁殖力はなく、水槽内で殖えすぎる危険性は低いといえます。
卵胎生なので卵を産み付けない
タニシの持つ特徴的な性質に、「卵胎生」というものがあります。これは、卵を産むのではなく、体内で卵から稚貝が生まれるのを待ち、ある程度稚貝が育ってから産むという性質です。
そのため、石巻貝やフネアマガイのように水槽内の至る所に卵を産み付けることがなく、水槽内の美観を損ねにくいといえます。また、卵胎生の生き物は、卵生の生き物に比べると産む子供の数が少ないので、この点も上記の「殖えすぎない」という長所を補強してくれるでしょう。
それでもタニシが殖えすぎて困る場合は、スネールイーターとして知られるチェリーバルブやアベニーパファーなどを水槽内に入れておけば、これらの魚が稚貝を食べて増えすぎを抑制できるはずです。
3つの摂食法で水槽を綺麗にしてくれる
タニシが餌を食べる方法はかなり特徴的で、3つの異なる摂食法を使い分けることが出来ます。その3つとは、石などの表面に生えた藻類などを削り取って食べる刈り取り食、水底の沈殿物を食べるデトリタス食、水中の懸濁物をエラで集めて食べる濾過摂食です。
コケ取り生体として利用される貝類に期待されるのは、主に1つ目の刈り取り食でしょう。この接触方法により、貝類は水槽の壁面や、流木、石などに生えた珪藻や、斑点状藻のようなコケを削り取るように食べてくれます。
そして、タニシ独特の摂食法として特に注目したいのは、3つ目の「濾過摂食」です。この特徴的な摂食法により、タニシは水中を浮遊するアオコを食べて水を透明にすることもできます。このため、アオコの発生しやすいビオトープや睡蓮鉢では、実はタニシは非常に重宝される存在なのです。
ひっくり返っても自分で起き上がれる
水槽用のコケ取り生体としてよく利用される石巻貝の弱点の一つが、ひっくり返ると自力で起き上がれない点です。笑ってしまいそうな間抜けな特徴ですが、実際にこのせいで死んでしまう個体も多くいます。
その点タニシは安全で、ひっくり返っても自力で起き上がることが出来ます。石巻貝に比べると比較的貝殻の形が尖っているため、足を水底につけやすいのかなーと思います。
殻の形状からそれなりに存在感がある
ここからは、どちらかと言うとタニシの短所になるような特徴を紹介していきます。
一つ目は、殻の形状からある程度の存在感があるということです。石巻貝の貝殻は黒くて丸っこい地味なものですし、フネアマガイも平べったくて目立つようなものではありません。それに比べるとタニシは、螺旋模様のはっきり見える大きめの貝殻を背負っているため、水槽内でも比較的目立ちます。
貝類にはできるだけ目立たず、コケ掃除だけをして欲しい人にとっては、タニシはやや存在感があって邪魔に感じられる可能性があります。
コケ取り単体の能力は石巻貝とくらべて低い
タニシは、アクアリウム水槽でのコケ掃除に役立つ「刈り取り食」だけでなく、デトリタス食や濾過摂食といった別の接触方法も持っています。これは言い換えると、コケだけを食べるわけではない、ということです。
そのため、水槽のコケ取りで期待される、ガラス面や石などに生えたコケの除去能力だけで言えば、タニシは石巻貝などに比べるとどうしても弱い印象があります。上でも触れた、濾過摂食によるアオコなどの除去能力も含めると石巻貝に決して劣るわけではないのですが、実際には室内に設置されたアクアリウム水槽でアオコが発生することは多くないので、どうしてもコケ取り能力では石巻貝に見劣りします。
大食漢でやや飢えやすい
また、タニシは貝類のイメージに反し大食漢で、水槽内のコケがなくなると餌不足になる可能性があります。ただ、上にも書いたように、刈り取り食、デトリタス食、濾過摂食と幅広いものを食べるので、水槽内に多少の残餌があれば餓死することはないはずです。一応個体数には注意をはらい、あまりにも過密にならないように気をつけましょう。
糞が多い
大食漢という特徴にも関連してくることですが、タニシはよく食べるため、糞の量も多いです。底床に糞がばらまかれ続けると、目詰まりの原因となり水質悪化にもつながりうるため、プロホースなどを使って多少意識的に底砂の掃除をしたほうが良いと思います。
野生個体を採取する場合は外来種に注意
タニシは日本にも生息する身近な淡水棲巻き貝なので、田んぼなどで採取しようと思う人も色と思います。ただし、その場合には、ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)というタニシに似た外来種に注意してください。
ジャンボタニシは稲の食害をするため農家からはかなり嫌われており、イネを食害するくらいですから、当然水草も食害します。水草水槽に入れるべきではありませんね。
ジャンボタニシは、上の画像のようなピンク色のツブツブとした特徴的な卵塊を産みます。この卵塊に毒があるのが、ジャンボタニシの繁殖力の秘訣です。この卵塊は空気中でしか孵化できないため、見つけたら水の中に蹴り落としておくと駆除にもなります。ジャンボタニシは要注意外来生物や侵略的外来種などに指定されているので、積極的に駆除して問題はありません。
タニシは短期的なコケ取り能力は低いが長期的には有効
ここまでに紹介したタニシの特徴をまとめると、以下のようなことが言えると思います。
- 短期的なコケ取り能力は石巻貝などに劣る。
- 水槽内で繁殖も狙えて長期的に維持が可能。
- 水槽内で繁殖するため数も増やせる。
- 濾過摂食などビオトープに非常に適したコケ取り能力を持つ。
石巻貝やフネアマガイほどコケ取り能力が高いわけではないため、コケが生えて見栄えが悪くなった水槽にタニシを入れるというのは、あまり効率的な方法ではありません。一方で、アクアリウム水槽の環境には比較的適応しやすく、水槽内での繁殖も容易なため長期的な維持が可能です。
この特徴を活かし、コケが気になり始めるよりも前の段階で水槽にタニシを導入し、繁殖させたりしつつ水槽内での数をコントロールしながら、コケの発生を予防するような存在として活用すると、高い効果が見込めるコケ取り生体であると考えられます。また、屋外のビオトープでは、濾過摂食も含めた大きな水質浄化能力が見込めるため、積極的に活用していきたい存在です。
こうやってじっくり考えてみると、タニシも水草水槽で活躍できる生き物だということがわかりました。個人的には、水槽内での繁殖が可能で持続的に飼育できるという点が高評価です。ぜひ一度、水槽のコケ取り役として、タニシに働いてみてもらいませんか。