コラム

生き物ブロガーとしてジャポニカ学習帳昆虫写真騒動に思うこと

2014/11/29

私は子供の頃、生粋の虫とり少年でした。一日中昆虫を追いかけて外を走り回るなんてことはザラで、捕まえた虫を飼育し、夏休みの自由研究も昆虫の研究でした。のめり込み過ぎて自由研究は県で一番の賞を獲ってしまい、日本昆虫協会で表彰していただいたこともあります。

今は残念ながら「生粋の虫とりお兄さん(まだおじさんじゃないよ)」を名乗れるほど昆虫と近い距離にはいませんが、それでも昆虫は大好きですし、生き物に囲まれてアクアリウム爬虫類を中心とするブロガーなんてものをやっております。子供の頃に昆虫たちと過ごした時間は、私の人生に大きな影響を与えていることは間違いありません。

ジャポニカ学習帳から昆虫が消えた

今回はそんな昆虫大好き・生き物大好きなK-kiが、最近ちょっと話題になっている「ジャポニカ学習帳から昆虫が消えた」という件について、自分語りも交えながら思うところを綴っていこうと思います。

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まずはこの話題を知らない人のために、「ジャポニカ学習帳から昆虫が消えた」ってどういうこと?というのを説明します。

"子供たちに愛され12億冊 「ジャポニカ学習帳」破れかぶれの昼メロCMが大当たり"
抜粋

2年前には、それまで植物とともに表紙写真で使われていた昆虫が消えた。教師や母親から、「気持ち悪い」とクレームが寄せられたためだ。

「若い先生が蝶蝶を見て『蛾じゃないの?』と。昆虫採集の機会が減ったせいかな…」。片岸社長は寂しそうに話す。トップブランドを維持するには、伝統を守るだけでなく、時代のニーズを取り込む柔軟性も必要だった。

上のニュース記事を読んでもらうと分かるのですが、ざっくりまとめると

  • 「ジャポニカ学習帳」は40年以上トップブランドの地位を守ってきた。
  • 表紙は、子供が見られないものを写真で紹介することが最優先。
  • 昼メロの間に打った広告がヒット。
  • 教師や母親の「気持ち悪い」というクレームを受け表紙の昆虫写真掲載を取りやめ。
  • 時代に合わせた対処で「立体商標」への登録を実現。
  • ブランドへの信頼を守るため、今後も国産を維持する予定。

というような事が書いてあります。この中の、

  • 教師や母親の「気持ち悪い」というクレームを受け表紙の昆虫写真掲載を取りやめ。

という点について、クレームを入れた教師や母親を批難する意見が多く出ています。特に社会学者の宮台真司さんがこの問題について批判的にコメントしたことで注目を浴びたようです。

宮台さんの主張はリンク先の「ジャポニカ学習帳から昆虫が消えた!その背景とは?」という項目で試聴することができます。

2016/06/30 追記

参照元記事が閲覧できない状態になっていたため、リンクを削除しました。

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ショウワノートの対応はある意味当然

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ジャポニカ学習帳の販売元であるショウワノートは、子供向けの学習用品を扱う会社とはいえただの一企業です。ユーザーの声に耳を傾ける、不快に思わせることがあれば対処する、これはある意味当然の姿勢だと思います。クレーマーに屈したとかそういう風に表現する人もいるかもしれませんが、要するにリスク回避です。トラブルの元になるようなものは無い方がいい、経営方針としては別におかしくはないんじゃないでしょうか。

ショウワノートを叩いている人には、いくら何でもそれは無いんじゃないかと思います。昆虫写真の掲載をやめることによってこれまで昆虫写真目当てでジャポニカ学習帳を買っていた層が離れ、リスク回避したつもりが不利益を被るんじゃないかという指摘(現実にはそんなことは起こらないでしょうが)とかなら分かりますが、ショウワノートの対応は避難されるようなものじゃないでしょう。私にとってはむしろ、利益を追求する企業としては当然の対応ではないかとさえ思えます。

教育に携わるものなんだからもっと子供への教育的見地から考えろと言われるかもしれませんが、そんなことを言っている人が利益を保証してくれるわけでもないですよね。まずは企業として不利益を被らないように務めるのは当然ではないでしょうか。

宮台真司さんの意見

宮台真司さんの意見には、社会学的な考えが「ジェントリフィケーション」という言葉を通じて反映されていて、これは非常に面白いなと思います。社会が嫌なもの・汚いものをあらかじめ取り去ってしまう、だから嫌なものを受け入れられない・免疫のない人間が増えてしまう。このジャポニカ学習帳に関するショウワノートの対応もそういった類のもので社会の質を下げることになりよろしくない、という内容です。

主張は分かりますし納得もできます。ただこれを持ちだしてショウワノートに昆虫写真掲載をやめるなというのはちょっと酷かなとも思います。上にも書きましたが、やっぱり企業は利益が出ないと困るわけです。社会のあり方を良くする、そういった社会貢献も企業の役割ではあるのでしょうが、それもある程度余裕のある状態でないと厳しいですよね。ショウワノートの経営状況は知りませんが、ユーザーに製品を売る企業が、社会の改善よりもユーザーのイメージダウン回避を選択したとしても致し方ないんじゃないかなと思います。

昆虫は気持ち悪い

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例えば、昆虫を気持ち悪いと感じるようなヤツは教師失格だ、というような批判があります。

昆虫を気持ち悪いと感じること、これって私は特別でも何でもないことだと思うんです。昆虫というのはとても身近でありながら、私達とはまるで違うどこか得体のしれない生き物です。私のような人間がその得体のしれなさに魅力を感じるように、その得体のしれなさを「気持ち悪い」と表現する人がいたっておかしくありません。

昆虫は気持ち悪い。だから昆虫は魅力的。そういうふうに考えられないでしょうか。つまりどういうことかというと、私は教師や親が昆虫を気持ち悪いと感じることは別に批判されるようなことじゃない、ただの価値観の違いだと思うわけです。

昆虫は世の中に貢献している…から?

他にも、「世の中は植物の受粉など昆虫の活動があって成立している部分もある!重要な生き物なのに表紙から外すなんて!より好みせず虫も受け入れろよ!」みたいな意見(大雑把にまとめています)もあります。これってどうなんでしょう。

確かに役に立つ昆虫はいます。ミツバチみたいに世界のために無くてはならない存在、そういう虫もいます。昆虫の価値・役割はとても大きい物があり、それを知ってもらうことは重要ですが、なんだかこれもちょっと違う気がするんです。

こういう意見は要するに、役に立っている生き物だから気持ち悪いなんて思うな、ということですよね?役に立つこと、敬意を払うことと、気持ち悪いという生理的な反応って別のものじゃないでしょうか?そもそもジャポニカ学習帳の表紙って昆虫のプロパガンダのためにあるわけじゃないですよね。

K-kiが思う問題点

じゃあ一体このジャポニカ学習帳騒動の何が問題なんでしょうか?私の思う問題点はちょっと違うところにあります。

教師や親が可能性を奪ってほしくない

教師や親が昆虫のことを「気持ち悪い」と思うのは構いません。だからといって子供のノートから昆虫の写真を無くしてしまうのはあまりにも自分本位すぎると思うんです。

少なくとも昆虫写真が表紙になっているノートを買った子は、虫が好きか興味があるはずです。そういう子供から、子供を育てる立場の親・教師の都合で好きなものを奪っちゃっていいんでしょうか。これは虫が好きな子供だけでなく、これからジャポニカ学習帳を通じて昆虫に興味を持つかもしれなかった子供からも可能性を奪うことになります。

私が何で昆虫少年をやっていたのか、そもそも興味をもつキッカケは何だったのかはもはや忘れてしまいましたが、小さな子供のことですからきっと些細なことだったと思います。例えばノートの表紙に載っていた昆虫写真がキレイだったとか、そんな理由だったのかもしれません。

でもジャポニカ学習帳の表紙から昆虫写真がなくなってしまったら、そうやって昆虫に出会う子供がいなくなります。子供時代に興味を持って熱中できたかもしれないものに出会うチャンスが失われてしまうんです。

「嫌い」よりも「好き」の方が大きなエネルギーを生む

この記事を書く途中で色々調べていると、「大人になった虫とり少年」という本を見つけました。かつての虫とり少年としてノーベル化学賞受賞の白川英樹氏や脳科学者の茂木健一郎氏などの著名人を紹介し、昆虫が彼ら各分野の第一人者に大きな影響を与えていたことを明らかにするという本です。

虫を取っていた子供はいつの間にかノーベル賞を取ってしまうんだ!なんてことが言いたいわけではなく、昆虫でも何でも子供の頃に興味のあるものに打ち込んだ経験というのは、人生に大きな影響を与えると思うんです。私も小学生の時に昆虫の研究に没頭し、新しいことを発見することの面白さを子供ながらに感じました。この経験がその後私を理系に進ませ、大学院まで支えてきた部分も大きくあるでしょう。

好きなことに没頭することは、積もり積もればノーベル賞を受賞するような大きなエネルギーを生み出すことにも繋がっていくと思うのです(さすがにノーベル賞は特殊な例ですが)。子供を導いてあげるべき親や教師の「嫌い」という感情で、子供の未来の可能性を奪ってしまわないでほしいと私は思います。人生の先輩として、子供たちが少しでも好きなものに出会えるチャンスを増やしてあげて欲しいなと思います。

昆虫写真が消えた経緯への補足

この昆虫写真掲載の取りやめまでの経緯が、産経新聞のニュースだけでは若干不足しているので補足用のリンクをいくつか紹介しておきます。

参考ジャポニカ学習帳から昆虫が消えた 教師ら「不快」→苦渋の決断

参考j虫嫌いのママも納得 昆虫と仲良く暮らす秘訣|くらし&ハウス|NIKKEI STYLE

ジャポニカ学習帳の表紙の写真は30年以上、カメラマンの山口進氏が撮影していたそうですが、現行シリーズの「アフリカ編」では撮影できる昆虫の数が少なかったという問題もあったようです。もしかしたらクレームだけでなく色々な要素が合わさった結果の昆虫写真掲載取りやめだったのかもしれませんね。

ジャポニカ学習帳昆虫写真騒動に思うことまとめ

K-ki

一部の親や教師からのクレームにより、ジャポニカ学習帳の表紙で昆虫写真の掲載が取り止めになったという騒動について、K-kiの意見をまとめてみました。やっぱり私も含め、大人が子供の可能性を奪わないであげて欲しいというのは切に願います。昆虫写真が表紙のジャポニカ学習帳が復活したら私としては嬉しいですが、ちょっと難しいかな。

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K-ki

K8ki・けーきはK-kiのシノニム。 AquaTurtlium(アクアタートリウム)を運営しています。 生き物とガジェットが好きなデジタル式自然派人間。でも専門は航空宇宙工学だったりします。 好きなことはとことん追求するタイプ。

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